人生の大きな選択

サラリーマンこそ副業を。青色申告で身につく「税金と事業のお金を理解する力」

サラリーマンの副業と青色申告をテーマに、帳簿・電卓・パソコン・金貨を配置したMoney Compassのアイキャッチ画像
筒井直子|Money Compass 編集長

会社員は、毎月の給与から所得税や社会保険料が差し引かれ、多くの場合は会社が年末調整まで行ってくれます。

とても便利な仕組みです。

その一方で、「自分の所得はいくらなのか」「税金は何をもとに計算されるのか」「売上と利益は何が違うのか」を、自分で計算する機会はあまりありません。

副業を始めると、この景色が変わります。

売上を記録する。必要経費を分類する。利益を計算する。帳簿をつける。そして、必要であれば自分で確定申告する。

副業の価値は、月数万円の収入だけではありません。

会社員を続けながら、小さな事業を自分で動かすことで、「お金がどう流れ、税金がどう決まるのか」を実地で学べることにもあります。

※本記事は2026年9月1日時点の国税庁・厚生労働省の公表資料をもとにしています。

副業は「会社を辞める準備」ではない

副業というと、「会社を辞めて独立するための準備」と考える人もいるかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。

本業を続けながら、

自分の商品やサービスを作る。
会社以外の取引先を持つ。
自分の名前で収入を得る。
収支を自分で管理する。

こうした経験そのものに意味があります。

厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、副業・兼業を希望する人の多様なキャリア形成を後押しする方向を示しています。一方で、労働時間、健康管理、秘密保持、競業などには注意が必要としています。副業を始める前には勤務先の就業規則や届出ルールを確認することが前提です。

「副業=事業所得」ではない

会社員がブログ、動画制作、ライティング、デザイン、コンサルティングなどで収入を得たとしても、自動的に「事業所得」になるわけではありません。

所得税は、活動実態によって「事業所得」になる場合と「業務に係る雑所得」になる場合があります。

項目事業所得業務に係る雑所得
青色申告対象対象外
必要経費計上できる計上できる
他の所得との損益通算原則可能不可
判定活動実態で判断活動実態で判断

国税庁の所得税基本通達35-2では、事業所得に当たるかどうかについて、その所得を得るための活動が『社会通念上事業と称するに至る程度』で行われているかどうかで判定するとしています。

「開業届を出したから事業所得」

「青色申告承認申請書を出したから事業所得」

「副業収入が年間○万円を超えたから事業所得」

と機械的に決まるわけではありません。

「300万円」が事業所得の境界でもない

ネットでは時々、「副業収入が300万円以上なら事業所得」という説明を見かけます。これも正確ではありません。国税庁は、所得税基本通達35-2の改正に関する解説資料で、取引を帳簿に記録し、その帳簿書類を保存している場合には、一般的に営利性・継続性・企画遂行性を有する活動として、社会通念上、事業所得に区分される場合が多いと説明しています。

一方で、帳簿をつけていても、

収入が例年ごく少額である場合
継続的に赤字で、黒字化に向けた取り組みも行っていない場合

などは、事業と認められるか個別に判断するとしています。国税庁は「収入金額300万円」を一律の事業所得判定ラインとしているわけではありません。副業を事業所得として申告したいから事業になるのではなく、実態として事業を行っているかが先なのです。

青色申告とは何か

副業が事業所得に該当するなら、知っておきたいのが青色申告です。

青色申告とは、一定の方法で日々の取引を記帳し、その帳簿に基づいて正しく申告する人に対して、所得計算上の特典を設けている制度です。青色申告ができるのは、原則として、事業所得・不動産所得・山林所得のある人です。業務に係る雑所得しかない会社員が、単に税金を減らす目的で青色申告を選択することはできません。

2026年は最大65万円の青色申告特別控除

2026年分について、青色申告特別控除は最高65万円です。

青色申告を選んだだけで自動的に65万円控除されるわけではありません。正規の簿記の原則、一般には複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書などを作成して期限内に申告することが基本要件です。

そのうえで、e-Taxによる電子申告を行う、または一定の電子帳簿保存要件を満たすことで、最高65万円控除の対象になります。要件を満たさない場合は55万円または10万円となる場合があります。

2026年分控除額
複式簿記など+一定要件最大55万円
上記+e-Tax等最大65万円
簡易な記帳など最大10万円

ここで「最大」という言葉も重要です。たとえば青色申告特別控除前の事業所得が30万円なら、65万円控除を使って事業所得をマイナス35万円にできるわけではありません。控除できる額には所得金額による上限があります。

なお、2027年分からは一定の電子帳簿保存等の要件を満たす場合、最大75万円の青色申告特別控除が設けられます。 単純に65万円が全員75万円になるわけではありません。

青色申告承認申請書には期限がある

青色申告を利用するには、原則として税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。提出期限は原則、青色申告をしようとする年の3月15日までです。

その年の1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、事業開始日から2か月以内となります。ここを過ぎると、原則としてその年から青色申告を始めることはできないため注意が必要です。

「開業届」と「青色申告申請」は別

もう一つ、古いネット記事に注意したいのが開業届です。

「個人事業を始めたら1か月以内に開業届」

という説明を見かけることがありますが、現在の国税庁の案内では、個人事業の開業・廃業等届出書について、事業を開始した年分の所得税の確定申告期限までとされています。

開業届と青色申告承認申請書は別の手続です。

青色申告を希望する場合は、開業届の期限とは別に、青色申告承認申請書の期限を守る必要があります。自治体への事業開始届など、国税とは別の手続が必要になる場合もあります。

「経費にすれば税金が安くなる」は危険な考え方

副業を始めると、「これは経費にできますか?」という発想になりがちです。必要経費は税金を減らすための自由枠ではありません。

事業所得では、

総収入金額-必要経費=事業所得

として所得を計算します。必要経費にできるのは、収入を得るために直接必要な費用や、その業務を行うために必要な費用です。

たとえば、仕事で使用するソフトウェア、業務のための通信費、取材・制作に必要な費用などは、条件によって必要経費になり得ます。しかし、「副業を始めたからパソコンもスマホ代も家賃も全部経費」とはなりません。

自宅家賃や通信費など、仕事と私生活の両方で使う支出については、業務上必要な部分を合理的に区分できる範囲が必要経費になります。経費を増やすことが目的なのではなく、実際の事業活動を正しく帳簿に反映することが基本です。

※自宅兼オフィスの家事按分については、関連記事「自宅兼オフィスの家事按分」をご覧ください。

「副業を赤字にして給与の税金を取り戻す」は要注意

青色申告について語るとき、特に注意したいのが赤字です。

事業所得に損失が生じた場合、その損失は一定のルールのもとで給与所得など他の所得と損益通算できる場合があります。青色申告者については、損益通算しても残った純損失を原則として翌年以後3年間繰り越せる制度もあります。

しかし、「会社員が副業を赤字にすれば給与所得の税金を減らせる制度」ではありません。そもそも副業が事業所得に該当しなければならず、雑所得の赤字は給与所得などと損益通算できません。

節税を目的に実態の乏しい副業を作り、私的な支出を経費にして赤字を計上する、といった考え方は避けるべきです。

「副業20万円まで申告不要」の意味も正しく知る

給与を1か所から受け取り、年末調整を受けている会社員などは、副業などによる給与・退職所得以外の所得金額が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要になる場合があります。

ただし、ここでいう20万円は「売上」ではなく、収入から必要経費を差し引いた後の所得金額です。

また、「20万円以下なら絶対に申告しなくていい」という意味ではありません。たとえば医療費控除や住宅ローン控除の初年度など、別の理由で確定申告をする場合は、20万円以下の副業所得についてもあわせて申告する必要があります。

さらに、この「20万円以下なら申告不要」という扱いは、あくまで所得税の確定申告についてのルールです。所得税の確定申告をしない場合でも、個人住民税については申告が必要になることがあります。

副業所得が20万円以下だからといって、そのまま何もしなくてよいとは限りません。住民税の申告方法については、住んでいる市区町村の案内を確認しておくと安心です。

青色申告の本当の価値は「65万円」だけではない

青色申告のために帳簿をつけるようになると、

「売上が増えたのに、なぜ現金が増えていないのか」

「広告費を使った結果、利益はいくら残ったのか」

「毎月固定的に出ていく費用はいくらなのか」

「今年はいくら納税資金を残しておくべきか」

と考えるようになります。これは、会社員が経験しない感覚です。

副業を持つことで、税金を「安くする方法」を覚えるのではなく、所得がどう生まれ、税金がどう計算されるのかを自分で説明できるようになる。私は、こちらの方がはるかに大きな価値だと思います。

会社だけに収入を依存しないという選択

会社員という働き方には、大きなメリットがあります。

安定した給与、社会保険、福利厚生、信用力。個人でこれらをすべて用意するのは簡単ではありません。会社を急いで辞める必要はありません。

本業という安定した土台を持ちながら、自分でも小さな収入源を育てる。

この組み合わせに意味があります。副業が月5,000円でも1万円でも、ゼロから自分で売上を生み出した経験は、給与とはまったく違います。

税金は「コントロールするもの」ではなく「理解して備えるもの」

副業を始めると、税金を見る目が変わります。

必要経費を正しく計上する。
利用できる控除を確認する。
帳簿を残す。
納税額を予測して資金を準備する。

これは「税金を裏技で安くする」という話ではなく、法律に従って、自分のお金を自分で管理できるようになることです。

自分で売上を作り、経費を管理し、利益を把握し、税金を申告する。その一連の経験を通じて、会社の外でも生きていける小さな力を身につける。

青色申告は、そのための「節税テクニック」ではなく、事業のお金を正しく管理するための仕組みとして理解するのがよいでしょう。

【参考サイト】

国税庁「青色申告制度」
国税庁「青色申告特別控除」
国税庁「事業所得の課税のしくみ」
国税庁「雑所得」
国税庁「所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得)」
国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」
国税庁「新たに事業を始めたときの届出など」
厚生労働省「副業・兼業」

※本記事は、会社員の副業、所得税、青色申告について一般的な情報を提供するものであり、特定の節税方法を推奨するものではありません。副業による所得が事業所得または雑所得のどちらに該当するか、支出を必要経費に算入できるか、損益通算が可能かなどは、活動や支出の実態によって判断が異なります。また、所得税のほか、住民税、個人事業税、消費税等が関係する場合があります。実際の申告にあたっては国税庁・自治体等の最新情報を確認し、判断が難しい場合は所轄税務署または税理士等の専門家にご相談ください。

ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶應義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
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