「実家を放置」が通用しない時代へ 空き家をめぐる法律が変わった!
少し郊外を歩くと、長く人が住んでいない空き家が目につきます。雑草が伸び、庭木は隣地にはみ出し、外壁も傷んでいる。一戸建てだけでなく、空室が続くアパートやマンションも珍しくありません。
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は900万2,000戸、空き家率は13.8%。いずれも過去最高です。しかも共同住宅の空き家は約503万戸あり、空き家全体の55.9%を占めます。
空き家は、もはや「地方の古い一軒家」だけの問題ではありません。そして今、国は不動産を「所有者を明確にし、適切に管理する」方向へ制度を大きく変えています。
相続した実家、亡くなった親の名義のままではダメ
大きな転換点が、2024年4月に始まった相続登記の義務化です。
以前は、不動産を相続しても登記申請は義務ではありませんでした。その結果、父親が亡くなっても実家は父名義のまま、その子も亡くなり、さらに相続人が増える――ということが起きました。
年月がたつほど権利関係は複雑になり、最終的には所有者を簡単に特定できない土地が生まれます。
現在は、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
注意したいのは、2024年4月以前の相続も対象だということ。過去の相続で取得したことをすでに知っている不動産は、原則2027年3月31日までに対応する必要があります。「昔の相続だから、そのままでいい」は通用しません。
引っ越したのに「登記簿が旧住所」はNGに
さらに2026年4月から、住所・氏名変更登記も義務化されました。
不動産所有者の住所や氏名が変わった場合、原則2年以内に変更登記を申請する必要があります。
背景にあるのは所有者不明土地問題です。登記簿に名前があっても住所が古く、本人と連絡できなければ、公共事業や災害復旧、土地の管理などに支障が出ます。
つまり国は、「誰が所有しているのか」だけでなく、「その人に連絡できるか」まで把握できる制度へ移行しています。
倒壊寸前になるまで放置はできない
空き家そのものへの規制も強化されています。
以前から、倒壊のおそれなどがある危険な空き家を「特定空家」として行政が対応する制度はありました。しかし、危険な状態になってからでは遅すぎます。
そこで2023年施行の改正空家法では、その一歩手前となる「管理不全空家」が新設されました。窓が割れている、雑草や樹木が繁茂している、屋根や外壁が傷んでいるなど、放置すれば特定空家になるおそれがある住宅が対象になり得ます。
市区町村から指導を受けても改善せず勧告を受けると、住宅用地に適用される固定資産税の軽減措置が受けられなくなる場合があります。よくいわれる「建物を残しておけば土地の固定資産税が安いから、とりあえず壊さない」という発想にも歯止めがかかりました。
なお、「固定資産税が必ず6倍になる」という説明は正確ではありません。住宅用地特例が外れることで土地の税負担が大きく増える可能性がありますが、実際の税額は土地の評価額や負担調整措置などによって異なります。
隣の空き家から伸びてきた枝、自分で切れる場合も
空き家の増加に合わせるように、民法も変わっています。
以前は隣地の木の枝が自分の土地まで伸びてきても、原則として木の所有者に切ってもらう必要がありました。しかし、空き家では、所有者が分からない、連絡が取れないというケースがあります。
2023年4月施行の改正民法では、①所有者に切るよう催告したのに相当期間内に対応しない、②所有者や所在地を調べても分からない、③急迫の事情がある――といった場合には、越境された土地の所有者が枝を切り取れるようになりました。
もちろん「隣から出てきた枝なら自由に切っていい」という制度ではありません。一定の要件を満たす必要があります。
法改正は、実は一本につながっている
相続登記の義務化、住所変更登記の義務化、管理不全空家制度、越境した枝をめぐる民法改正。別々の制度に見えますが、背景には共通する問題があります。
「所有者が分からない、連絡できない、誰も管理しない不動産を放置できなくなった」ということです。
人口が減る一方、日本にはすでに大量の住宅があります。親が亡くなり、子どもは別の地域で生活している。実家に戻る予定はないが、思い出があって売れない。解体にもお金がかかる。
判断を先送りしている間にも建物は劣化します。さらに相続が重なれば、所有関係まで複雑になります。問題が深刻になってから対処するのではなく、所有者を明確にし、早い段階から管理を求める方向へ制度も変わっています。
不動産は「持っていれば資産」とは限らない
不動産は一般に「資産」と呼ばれます。しかし、使わない不動産が必ず資産になるとは限りません。
固定資産税、保険、修繕、草木の管理、遠方なら交通費。売れなければ維持費が続き、解体にも費用がかかります。管理不足から近隣トラブルが起きる可能性もあります。
相続で考えるべきなのは、「いくらの価値があるか」だけではありません。誰が所有するのか。誰が管理するのか。住むのか、貸すのか、売るのか、解体するのか。
家を相続するとは、土地と建物という財産だけを受け取ることではありません。管理する責任と将来の意思決定まで引き継ぐことでもあります。「とりあえず親の名義のまま」「とりあえず空き家のまま」が許されない時代になっているのです。
空き家になる前に「実家の出口」を考えておく
空き家問題で難しいのは、家が空き家になってからでは選択肢が限られてしまうことです。親がまだ自宅で暮らしている段階であれば、「この家を将来どうするのか」を家族で話し合っておくことも重要です。
自宅に住み続けながら資産価値を活用する方法として「リバースモーゲージ」があります。また、自宅を売却したあとも賃貸として住み続ける「リースバック」という仕組みもあります。
しかし、これらはメリットだけでなく、金利上昇、売却価格、家賃負担、契約条件など注意すべき点があります。
【関連記事】 リバースモーゲージとリースバックの違いとは? 老後に自宅を活用する2つの方法をわかりやすく解説
【参考サイト】
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 法務省「住所等変更登記の義務化」
- 法務省「所有者不明土地等関係の民法改正」
- 国土交通省「空き家対策」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- ※この記事は、空き家、不動産登記、相続等に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の法律・税務上の助言を行うものではありません。相続関係、登記状況、自治体による措置、税額等は個別の事情によって異なります。具体的な手続きについては、法務局、市区町村、司法書士、弁護士、税理士等の専門家にご確認ください。
