人生の大きな選択

持ち家より賃貸が有利? 「会計」で考える住まいの選び方

会計的には持ち家より賃貸が有利?資産・負債・キャッシュフローで比較したアイキャッチ画像
筒井直子|Money Compass 編集長

「家賃を払い続けるくらいなら、家を買った方が得」 「住宅ローンに縛られたくないから、賃貸の方がいい」こんな議論をよく聞きます。

結論から言えば、持ち家と賃貸のどちらが得かに、すべての人に共通する答えはありません。家族構成、働き方、住む期間、資産状況、地域の不動産価格などによって結果は変わります。ただし、住まいを「会計」の視点で見ると、少し違った景色が見えてきます。ポイントは、資産・負債・住居コスト・仕事との関係を分けて考えることです。

持ち家は「資産」だけでなく「負債」も見る

住宅を5,000万円で購入したからといって、単純に「5,000万円の資産を持った」と考えることはできません。住宅ローンが4,000万円残っているなら、家計には「不動産という資産」と「住宅ローンという負債」が同時に存在します。

会計的に考えるなら、大切なのは購入価格より、現在の住宅価値 − 住宅ローン残高です。また、住宅ローンを完済しても住居費がゼロになるわけではありません。マンションなら管理費や修繕積立金、持ち家全般では固定資産税や修繕費などがかかります。

国土交通省も、マンションについて長期修繕計画に基づき、適切な修繕積立金を確保することの重要性を示しています。つまり、「ローン返済額=持ち家の住居費」ではないということです。

賃貸は「資産が残らない」代わりに身軽

賃貸では、不動産という資産は原則として残りません。その一方で、大きな住宅ローンを抱えず、「転勤する」「家族構成が変わる」「収入が減る」「住みたい地域が変わる」といった変化に合わせて住み替えやすいメリットがあります。

会計的に言えば、持ち家は資産と負債を持つ選択、賃貸は住居サービスに対して家賃を支払う選択です。どちらが優れているというより構造が違います。

自宅で仕事をするなら、税務の見え方も変わる

さらに、副業や個人事業などで自宅を仕事場として使う場合、住居費の一部が必要経費になることがあります。

国税庁は、家賃や水道光熱費など、生活と業務の両方に関係する「家事関連費」について、業務上必要な部分を明確に区分できる場合、その部分を必要経費にできるとしています。たとえば賃貸住宅の一室を仕事専用スペースとして使っているなら、床面積や使用実態など合理的な基準で家賃を按分する方法が考えられます。

ただし、「家賃の30%ならOK」「50%までなら経費にできる」といった一律の基準が税法にあるわけではありません。

国税庁の基本通達でも、業務内容、経費の内容、住宅の利用状況などを総合的に判断するとされています。50%以下であっても、業務に必要な部分を明確に区分できれば、その部分を必要経費にできる場合があります。

持ち家でも経費にできるものはある

「仕事をするなら賃貸の方が得」なのでしょうか。必ずしもそうとも言い切れません。持ち家を業務にも使っている場合でも、事業に対応する部分について、建物の減価償却費、借入金利子、固定資産税、保険料、修繕費、水道光熱費などが必要経費になる可能性があります。

国税庁も、業務用資産を取得するための借入金利子は必要経費になると説明しています。 また、国税庁の申告資料でも、店舗兼住宅について減価償却費、固定資産税、火災保険料、水道光熱費などを床面積で按分する例が示されています。

一方で、住宅ローンの元本返済は必要経費にはなりません。これは、元本返済が費用ではなく、「借りたお金を返して負債を減らす取引」だからです。

ここは会計を理解するうえで非常に重要です。

賃貸と持ち家、税金だけで決めない

ここまで見ると、「賃貸なら家賃を経費にできるから得」と思うかもしれません。しかし、必要経費になるのは、あくまで業務に使った部分です。

仮に家賃20万円のうち5万円を必要経費にできても、5万円が返ってくるわけではありません。所得から5万円を差し引けるという意味です。

また、持ち家には不動産が残る可能性があり、賃貸には住み替えやすさがあります。税金は住まい選びの一要素であって、結論そのものではありません。

会計で見る「持ち家 vs 賃貸」

視点持ち家賃貸
資産不動産が残る原則残らない
負債住宅ローンを負う場合あり原則なし
維持費税・修繕・管理費等家賃・更新料等
住み替え時間・費用が必要比較的しやすい
自宅仕事の経費一部可能一部可能
元本返済経費にならない

大切なのは、「家賃は捨て金」「持ち家なら資産になる」という単純な二択で考えないことです。

住まいは「貸借対照表」で考える

持ち家を選ぶなら、「住宅はいくらで売れそうか」「ローンはいくら残るか」「維持費はいくらかかるか」を見る。

賃貸を選ぶなら、「家賃を払いながら、どれだけ資産形成できるか」「住み替えの自由にどれだけ価値を感じるか」を見る。

そして自宅で仕事をするなら、賃貸でも持ち家でも、生活費と業務費を合理的に分けられるかを考える。

これが、会計で住まいを考えるということです。

持ち家と賃貸のどちらが正解かではありません。自分の貸借対照表と、これからの働き方にどちらが合っているか。そこまで考えて住まいを選ぶ方が、「家賃がもったいない」という一言だけで決めるより、ずっと合理的です。

【参考サイト】

総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」日本の持ち家・借家の実態を示す基本統計。

国土交通省「マンション管理・修繕積立金」に関するガイドライン

国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」

※本記事は一般的な会計・税務の考え方を解説したものです。必要経費への算入可否は所得区分、業務実態、使用割合などによって異なります。個別の申告については国税庁・税務署または税理士等に確認してください。

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筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶応義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
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