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なぜワンルーム投資を買ってしまうのか? 営業トークを行動経済学で分解する

ワンルームマンション投資の営業トークを行動経済学の視点から分析するMoney Compassのアイキャッチ画像
筒井直子|Money Compass 編集長

「将来の年金代わりになりますよ」「家賃で返済できるので、実質負担はわずかです」「節税にもなります」「こんな物件は今しか買えません」……。

不動産の営業マンの話を聞いているうちに、「これはチャンスかもしれない。やらないと損なのではないか」と思い始めることがあります。なぜでしょうか。

理由の一つとされるのが、人間の意思決定に存在する「認知バイアス」です。人は誰でも、情報の提示方法や周囲の状況によって判断の仕方が変わることがあります。

なぜ、私たちは「買わされて」しまうのか」?

行動経済学とは、人間が必ずしも合理的に意思決定するわけではないことを、心理学の視点も取り入れて分析する学問です。私たちは「自分で考えて、自分で選んでいる」と思っています。しかし実際はどうでしょう? 選んでいるのではなく、選ばされていることもあるのではないでしょうか。

ワンルームマンション投資の営業トークには、行動経済学で説明できる典型的なフレーズが登場します。営業トークを「行動経済学」というレンズを通して分解してみましょう。

①「老後が不安ですよね」――損失回避

営業トークの入り口で使われやすいのが、将来への不安です。「年金だけでは不安」「何も準備しないのは危険」 こう言われると、人は「将来困ることを避けたい」と考え始めます。行動経済学では、人は利益を得る喜びより損失を避けることを強く意識する傾向があると説明されます。

しかし、「老後対策が必要であること」と「このワンルームをいま買うこと」は別の問題です。この二つを切り離して考えることが重要です。

②「資産形成は必要ですよね」――小さな同意の積み重ね

「老後の準備は必要ですよね」「資産形成は大切ですよね」「預金だけでは心配ですよね」と、反対しにくい質問が続くことがあります。多くの人が「そうですね」と答えるでしょう。

これは、不動産・保険・投資商品の営業トークに多いパターンで、 「フット・イン・ザ・ドア(Foot-in-the-Door Technique)」 ともいわれる心理テクニックです。

「ちょっと話だけ聞いてください」→「資料だけ見てください」→「無料相談だけでも」→「では、こちらにサインを」という流れです。

背景には 一貫性の原理(Consistency Principle) もあります。人は一度「YES」と言ったり、ある立場を取ったりすると、「さっきの自分と矛盾したくない」という心理が働きやすくなります。会話の流れでは、この間にある大きな論理の飛躍が見えにくくなることがあります。

③「みなさん始めています」――社会的証明

「同年代の会社員の方が買っています」「医師や公務員にも人気です」周囲の人も選んでいると聞くと、その選択肢が安全に見えることがあります。人間は判断材料が不足しているほど、他人の行動を参考にしやすいからです。

しかし、不動産投資では購入者それぞれの年収、資産、借入状況、家族構成、リスク許容度が異なります。100人が買っていることと、「自分にとって合理的な投資であること」には直接の関係はありません。

④「預金は増えない。株は怖い。不動産は安定」――フレーミング

同じ情報でも「どう切り取って、どう見せるか」によって、人の判断や印象が変わります。「預金は増えません」「株は価格が大きく動きます」「不動産なら毎月家賃が入ります」と並べれば、なんだか不動産だけが安定した選択肢のように見えるかもしれません。

しかし、当然ながら、不動産には空室、家賃下落、修繕、金利上昇、価格下落、流動性などのリスクがあります。「月々たった3万円で購入できます」と聞くと安く感じますが、「35年間で総額○○万円を支払います」と提示されると判断が変わるかもしれません。

⑤「月々わずか1万円です」――小さな数字に目を奪われる

数千万円のマンションでも、「家賃収入を差し引けば月々の持ち出しは1万円程度です」と説明されると、急に身近な買い物のように感じることがあります。

しかし契約しているのは「月1万円の商品」ではありません。数千万円規模の不動産を購入し、多くの場合は長期間のローン契約を結んでいます。必ず、単位を「1か月」から「契約全体」に戻すだけで、見え方は大きく変わります。

⑥「節税にもなります」――メリットを集めたくなる

一度「これはいい投資かもしれない」と考え始めると、人はその判断を支持する情報に目が向きやすくなることがあります。これは「確証バイアス」と呼ばれる心理現象の一つです。「家賃保証」「節税」「あなたも不動産オーナー」・・。魅力的に感じはじめます。

ここで意識的にやるべきなのは逆です。「この投資をしない理由」を自分で探すこと。空室になったら? 家賃が下がったら? 管理費や修繕積立金が上がったら? 売却価格が購入価格を下回ったら? 反対側の材料を集めて、それでも購入したいと思えるかを考えます。

⑦「今しかありません」――時間を奪われると判断は難しくなる

高額な契約ほど、本来は時間をかけて検討する必要があります。ところが、「他にも購入希望者がいて早い者勝ちです」「この条件は今日までです」「審査だけでも先に通しましょう」などと言われれば、考える時間そのものがコストに感じられてきます。

「今買わないと損をする」と感じさせ、じっくり比較・検討する時間を奪います。「希少性の原理」ともいわれます。「欲しい」以上に、「今買わなければ、このチャンスを失う」ことを強く意識させる点では「損失回避」の心理も働きます。

営業トークを数字へ翻訳しよう

ここまで読むと、営業担当者を信用してはいけないという話に見えるかもしれません。そうではありません。営業担当者の人柄と、投資としての合理性を分けることです。

感じの良い担当者でも、物件価格が適正とは限りません。説明が丁寧でも、将来の家賃が保証されるわけではありません。誰が、何によって利益を得る取引なのかを理解すること。そのうえで自分の利益と一致しているのかを確認することです。

営業を受けたら、言葉をそのまま受け取らず、数字に変換してみます。

「年金代わりになります」
→ 30年間の手取りキャッシュフローはいくらか。

「家賃でローンを払えます」
→ 空室3か月なら年間収支はいくらか。

「実質負担はわずかです」
→ ローンの総返済額はいくらか。

「節税になります」
→ 税負担の減少額と、投資そのものの損益を分ける。

「資産になります」
→ 10年後、20年後にいくらで売れる前提なのか。

言葉を数字に置き換えると、営業トークの力は弱くなります。「私はこの物件を買いたいのか。それとも、この話を聞いているうちに買いたくなったのか」。

自分の判断を自分の手に取り戻すことが必要です。

【参考サイト】

東京都消費生活総合センター|投資用マンション購入の判断は慎重に!

東京都住宅政策本部|悪質な不動産取引の勧誘にご注意を

国土交通省|投資用マンションについての悪質な勧誘電話等にご注意ください

東京都住宅政策本部|投資用不動産を買う前に

東京都|最近の不動産相談事例

※本記事は、投資用不動産の勧誘や意思決定について一般的な情報を提供することを目的としており、特定の事業者の営業手法を評価・批判したり、特定の不動産の購入・売却を推奨したりするものではありません。

※行動経済学・心理学上の概念は、人間の意思決定にみられる一般的な傾向を説明するものであり、特定の営業担当者がこれらの心理効果を意図的に利用していることを意味するものではありません。

※契約の解除やクーリング・オフの可否は、売主、契約場所、契約内容など個別事情によって異なります。契約や勧誘についてトラブルや不安がある場合は、消費生活センターなどの公的相談窓口や、弁護士などの専門家にご相談ください。

ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶応義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
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