金利ある世界の歩き方。金利は「天使」にも「悪魔」にもなる
30年近く、日本は世界でも珍しい「金利のない世界」でした。銀行にお金を預けてもほとんど増えず、住宅ローンは超低金利。若い世代の中には「金利は住宅ローンの数字」としか認識していない人も少なくありません。
しかし、本来、金利は経済の脇役ではありません。金利は、お金の世界の重力です。目には見えませんが、預金、投資、住宅、企業、国の財政、株価、為替まで、あらゆるものを静かに動かしています。
金利は「天使」にも「悪魔」にもなる
普段は意識しませんが、株価、住宅価格、預金金利、国債、円高・円安、企業の設備投資、国の財政・・。これらはすべて金利の影響を受けています。
つまり、見えないけれど、すべてを動かしている力。それが「重力」という比喩の意味です。もし地球の重力が今より20%強くなったらどうでしょうか。ジャンプしにくい、建物の設計が変わる、スポーツが変わる、飛行機も飛びにくくなる、世界がすべて変わります。
金利も同じです。0.5%から3%へ上がるだけで、住宅ローンが重くなる、企業は借金しにくくなる、国の利払い費が増える、社会全体の動きすべてが変わります。しかし、重力を「嫌だから」と無視することもその影響からも逃げられません。金利という「重力」は、味方につければ天使、敵に回すと悪魔にもなるのです。
金利は個人だけでなく、歴史も動かしてきました。2008年のリーマンショックでは、信用力の低い人たちに無理な住宅ローンが大量に貸し出され、それが証券化されて世界中の金融機関へ広がりました。
住宅価格が下落すると返済不能者が急増し、金融システム全体が揺らぎました。住宅ローンが、世界経済を震わせたのです。金利は、単なる数字ではありません。社会そのものを支える仕組みなのです。
金利は「時間のレンタル料」
金利は、お金のレンタル料だと思われがちですが、実際のところ「時間」のレンタル料です。
たとえば、都内近郊に6,000万円の住宅を35年ローンで購入したとしましょう。銀行が貸してくれるのは6,000万円ですが、本当に手に入れているものは、「35年間待たなくても、今日から家に住める時間」です。本来なら35年かけて貯めてから買うはずだったものを。時間を前倒しで買っている。その対価が金利です。
金利の差を実感するために、物件価格:6,000万円の家を「頭金なし」「35年ローン」で購入した場合でシミュレーションします。
| 金利 | 月返済 | 総返済額 | 利息総額 |
|---|---|---|---|
| 0.5% | 約15.6万円 | 約6,560万円 | 約560万円 |
| 1.5% | 約18.4万円 | 約7,720万円 | 約1,720万円 |
| 2.5% | 約21.5万円 | 約9,030万円 | 約3,030万円 |
| 3.5% | 約24.9万円 | 約1億450万円 | 約4,450万円 |
金利3.5%なら、家を一軒買うために、マンション一部屋分に近い金額を利息として支払う計算になります。家の値段は同じ6,000万円でも、35年という「時間を借りるコスト」が高くなれば、その分だけ毎月の支払いも増え、結果的にこれほどの違いが生まれるのです。
天使になる金利
お金を借りる側にとって金利は負担ですが、お金を貸す側に回れば景色は一変します。預金の利息。国債の利子。社債の利回り。配当株やREIT。これらはすべて、お金に働いてもらう仕組みです。さらに複利が加わると、時間そのものが資産を増やしてくれます。若いうちに投資を始める人が有利なのは、時間という最強の資産を持っているからです。
悪魔になる金利
逆に、高金利の借金は人生を大きく暗転させます。年15%、18%という金利で借りると、返済しているつもりでも、その多くは利息に消えてしまいます。働いて得たお金が、自分の未来ではなく、過去に借りたお金の利息へ流れていく。これほど苦しい状態はありません。
(補足)
日本では利息制限法によって、元本に応じて年15〜20%の上限が定められています。かつては利息制限法と出資法の上限の間に「グレーゾーン金利」と呼ばれる領域が存在し、多くの人が高金利で借り入れをしていました。法改正と判例の積み重ねによって、この仕組みは現在では解消されています。
なぜ宗教は利息を嫌ったのか
住宅ローンは最近できた制度ですが、利息そのものは古代メソポタミアの時代から存在します。さらに興味深いことに、多くの宗教は古くから利息に慎重でした。旧約聖書には、同胞から利息を取ってはならないという教えがあります。キリスト教も中世まで高利貸しを厳しく戒めていました。人類は何千年も前から「お金がお金を生む力が強く、ときに社会を壊すほど危険でもある」ことを知っていたのです。
利息を禁止しているイスラム教
イスラム教では現在でも利息(リバー)は原則として禁止され、イスラム金融という独自の仕組みが発達しています。
この背景には「お金そのものがお金を生むのは不公平である」「苦しい立場の人を利息で搾取してはいけない」「富は労働や事業活動によって生み出されるべきである」という考え方があります。
現代のイスラム金融では、利息を取らない代わりに、別の契約を使います。たとえば、銀行が家を購入し、それを「上乗せ価格で分割販売する」「銀行と共同で家を所有し、少しずつ持ち分を買い取る」「銀行が家を貸し、家賃を受け取りながら最終的に所有権を移す」などです。
経済的な結果は通常の住宅ローンに近くても、「利息を取る契約」ではなく、「売買」や「賃貸」の契約という形をとっています。
金利ある世界の歩き方
30年間、日本は金利の存在を忘れても生活できる、特別な時代でした。その時代は少しずつ終わろうとしています。これからは、金利を「住宅ローンの数字」として見る人と、「時間の価格」として理解する人とで、お金との付き合い方は大きく変わっていくでしょう。
人類は火を使うことを覚え、車輪を発明し、文字を書き、貨幣を生み出しました。そして、お金には時間という価値があることを知り、金利という仕組みを築きました。
金利は、人類が何千年も付き合い続けてきた仕組みです。その力は、文明を発展させ、人々の暮らしを豊かにしてきました。しかし同時に、過剰な借金や金融危機を生み、多くの人の人生を狂わせてきた歴史でもあります。
金利は善でも悪でもありません。それは、火と同じです。正しく使えば人を温め、誤って扱えばすべてを焼き尽くします。金利ある世界を歩くということは、人間と時間の関係を学ぶこと。自分の未来をどう選ぶかを考えることなのです。
【参考】
※本記事は、金利についての一般的な金融知識を提供することを目的としており、特定の金融商品への投資や借入を推奨するものではありません。金利や商品・ローンの条件は金融情勢や金融機関によって異なり、変更される場合があります。実際の取引や契約にあたっては、必ず金融機関等の最新の公式情報を確認し、ご自身の資産状況や返済能力を踏まえて判断してください。
