投資・資産形成

ゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘った人だけではない!「つるはしとシャベル投資」という考え方

ゴールドラッシュのつるはしとシャベル、金塊、投資チャートを描いた「つるはしとシャベル投資」のイメージ
筒井直子|Money Compass 編集長

「AI時代には、どの会社が勝つのだろう」。NVIDIAなのか。巨大テック企業なのか。あるいは、まだ知られていない新興勢力なのか。

新しい産業が立ち上がると、投資家はどうしても「最終的な勝者」を探したくなります。しかし、投資にはもう一つの考え方があります。

勝者を当てるのではなく、勝者になるために誰もが必要とするものに投資する。これが、いわゆる「つるはしとシャベル投資(Picks and Shovels Investing)」です。

ゴールドラッシュで、本当に儲けたのは誰だったのか

「つるはしとシャベル」の原点としてよく語られるのが、19世紀半ばのカリフォルニア・ゴールドラッシュです。

1848年、カリフォルニアで金が発見されると、一攫千金を夢見る人々が殺到しました。当然ながら、金を掘りに行った全員が金持ちになれたわけではありません。

金脈を見つけられる人もいれば、何も見つけられずに帰る人もいる。金が見つかったとしても、採掘には道具も食料も衣服も必要です。これにいち早く気づいた一人が、実業家のサミュエル・ブラナンです。

ブラナンは採掘者に必要な物資を販売し、大きな利益を上げました。彼の店は1日に5,000ドルもの売り上げがあったそうです。米国の熟練職人の日給が数ドル程度だった時代です。金を探しに来た人々が殺到することで、採掘道具を売る側には桁違いの需要が生まれていたのです。

金が見つかるかどうかは不確実でも、金を探す人が増えれば道具は売れる。

これが「つるはしとシャベル」の発想です。

リーバイスは「金」ではなく「働く人」を見ていた

ゴールドラッシュの話では、リーバイスもよく登場します。ただし、「金鉱夫にジーンズを売って大儲けした」という説明は少し単純化されているようです。

リーバイ・ストラウスは1853年にサンフランシスコへ移り、衣料や生地などを扱う卸売業を展開しました。その後、仕立屋のジェイコブ・デイヴィスと組み、作業着の傷みやすい部分を銅製リベットで補強する方法を1873年に特許化します。これが現在のブルージーンズにつながっていきました。

ここで重要なのは、ジーンズそのものではありません。金を掘る人が増えれば、道具が必要になる。衣服が必要になる。食料が必要になる。宿泊場所が必要になる。物流が必要になる。

主役が増えれば、その周辺産業にもお金が流れる。

この構造は、150年以上たった現在もほとんど変わっていません。

「次の勝者」より「全員が使うもの」を探す

つるはしとシャベル投資の面白さは、「誰が勝つか」ではなく「勝つためには何が必要か」という方向に発想を反転させるところにあります。

たとえば自動車産業が成長すれば、自動車メーカーだけでなく、鉄鋼、タイヤ、工作機械、道路、ガソリンスタンドなどが必要になります。

パソコンが普及すれば、パソコンメーカーだけでなく、半導体・ハードディスク・製造装置・通信設備・ソフトウェアなど巨大な周辺産業が生まれます。

インターネットが広がれば、その上でサービスを提供する会社だけでなく、サーバー、通信機器、光ファイバー、データセンターなどが必要になります。

産業革命の主役は変わっても、「何か大きな産業が生まれると、その産業を支える基盤が必要になる」という構造は変わりません。

これが、つるはしとシャベル投資が流行語だけで終わらない理由です。

現代のゴールドラッシュは「AI」

この考え方が非常に分かりやすく現れている分野の一つがAIです。生成AIが急速に普及すると、どうしても、「次のNVIDIAはどこか」「どのAIサービスが覇権を取るのか」という話に目が向きます。しかし、つるはしとシャベルの視点なら、問いは少し変わります。

AI企業同士が競争すればするほど、何が必要になるのか。

まず必要なのが半導体です。AIモデルの学習や推論には大量の計算能力が必要です。そのためにはGPUをはじめとした半導体だけでなく、それを製造するための半導体製造装置や関連技術も必要になります。

そして、もう一つ忘れてはいけないものがあります。電気です。大量のサーバーを置くデータセンターには莫大な電力が必要です。さらに、電気を作るだけでは足りません。送電・変電・蓄電。電力需要の管理。設備の冷却。

AIが巨大産業になるほど、裏側では物理的なインフラが必要になります。AIはデジタルの世界の話に見えますが、実際には「物理的な産業」でもあるのです。

「SMH」を1株から買ってみた理由

私自身が注目した「つるはし」が、米国ETFのSMH(VanEck Semiconductor ETF)です。SMHは、米国市場に上場する主要な半導体関連企業を対象とするETFです。半導体メーカーだけではなく、半導体製造装置などの企業も対象になります。

「どのAI企業が最終的に勝つのか」を予想するのではなく、「AI競争が続くなら、半導体は必要だろう」という発想です。

もちろんSMHも安全な商品ではありません。半導体という一つの業種に集中するETFなので、全世界株式や米国株式市場全体に投資するインデックスファンドに比べれば値動きは大きくなります。私はまず1株から始めました。

たった1株でも買うと、不思議なもので、その業界を見る目が変わります。半導体メーカーの設備投資、AI向け半導体のニュース、製造装置メーカーの決算。自分のお金が少し入っているだけで、それまで読み飛ばしていたニュースが急に「自分事」になります。

もう一つ買った「GRID」

もう一つ、1株から始めたのがGRID(First Trust NASDAQ Clean Edge Smart Grid Infrastructure Index Fund)です。GRIDは、電力網やスマートグリッド関連企業を対象とするETFです。

連動する指数には、電力網、電力計測機器、ネットワーク、エネルギー貯蔵・管理、スマートグリッドを支えるソフトウェアなどに関わる企業が含まれます。「AIが本当に普及するなら、その電気をどうするのか」と考えた一段下のインフラ投資です。

華やかな生成AIサービスのニュースの裏側で、データセンターを動かすには電力が必要です。電力需要が増えれば、発電だけでなく送配電網への投資も必要になる可能性があります。

そこで私は、半導体のSMHと、電力インフラのGRID。この2つを「現代のつるはしとシャベル」として、小さく持ってみることにしました。

「つるはしとシャベル投資」はサテライトで考える

つるはしとシャベル投資は、「ブームの主役に投資するより安全」というイメージがありますが、当然、つるはしを売る会社にも競争があります。需要を見込んで設備が増えすぎれば、供給過剰になることもあります。優れた技術が別の技術に置き換えられる可能性もあります。

どんなに成長する産業でも、株価がすでに将来の成長を織り込んでいれば、高値で買った投資家が高いリターンを得られるとは限りません。

つるはしとシャベル投資は、AI、半導体、データセンターなど成長テーマの恩恵を受けやすい一方で、特定の業界やテーマに投資先が偏りやすいという特徴があります。

そのため、全世界株式や米国株式などを資産形成の「コア」に置き、一部を成長テーマに振り向ける「コア・サテライト戦略」と呼ばれる運用方法が注目されています。安定的な資産形成を担うコアと、より高い成長を狙うサテライトを分けて考えることで、リスク管理しやすくなります。

コア・サテライト戦略とは? インデックス投資とテーマ投資をどう組み合わせるかについては、こちらの記事もあわせてご覧ください

ゴールドを探すより「その横」を見る

投資の世界ではいつの時代も、新しいゴールドラッシュが起こります。鉄道。自動車。パソコン。インターネット。スマートフォン。そして現在はAI。

そのたびに「次の大化け銘柄は何か」という話が盛り上がります。そんなとき、一度視線を横にずらしてみる。その競争に参加する企業が、必ず買わなければならないものは何だろう。半導体なのか。製造装置なのか。電力なのか。送電網なのか。通信設備なのか。冷却設備なのか。

「その産業のつるはしとシャベルは何だろう?」と考えると、投資ニュースの見え方はずいぶん変わってくるのではないでしょうか。

※本記事は、特定の金融商品・銘柄の購入を推奨するものではありません。ETFを含む金融商品には価格変動、為替変動、業種集中などによる損失の可能性があります。投資判断は、商品の内容やリスク、手数料等を確認したうえで、ご自身の判断と責任で行ってください。

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ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶応義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
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