NISAで家計が苦しくなるのはなぜ? 積立額と生活防衛資金の考え方
「NISAはやったほうがいいですか?」ここ数年、よく聞かれる質問です。
結論からいえば、NISAは資産形成に活用できる非常に有利な制度です。ただし、使い方を間違えると家計を苦しくする原因にもなります。いわゆる「NISA貧乏」です。
投資を優先するあまり現金が不足し、日々の生活がカツカツになる。資産を増やすための制度なのに、なぜこんなことが起きるのでしょうか。
大切なのは、NISAは「投資で得た利益を非課税にする制度」であって、「投資すれば得をする制度」ではないということです。2026年8月時点の制度を、公的資料をもとに整理します。
NISAとは? まず制度の基本を確認
NISAは「少額投資非課税制度(Nippon Individual Savings Account)」です。
株式や投資信託などから得た売却益や配当・分配金には、通常、20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)の税金がかかりますが、NISA口座で得た利益は非課税になります。
現在のNISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があります。
つみたて投資枠
年間投資枠は120万円。対象は、長期・積立・分散投資に適した一定の要件を満たす投資信託などで、対象商品は金融庁が公表しています。
ただし、「つみたて投資枠の商品=安全」という意味ではありません。投資信託である以上、価格は変動し、元本割れする可能性があります。
成長投資枠
年間投資枠は240万円。上場株式や投資信託など、つみたて投資枠より幅広い商品に投資できます。
2つの枠は併用できるため、120万円+240万円=年間最大360万円 まで投資できます。非課税保有限度額は合計1,800万円で、このうち成長投資枠は1,200万円まで。非課税保有期間は無期限です。
非常に大きな制度ですが、ここに最初の落とし穴があります。
年間360万円は「目標」ではなく「上限」
年間360万円と聞くと「できるだけ満額まで使ったほうが得なのでは?」と思うかもしれません。しかし、360万円はあくまで制度上の投資上限額です。金融庁が「毎年360万円投資しましょう」と勧めているわけではありません。
360万円は月平均30万円。つみたて投資枠だけでも年間120万円、月10万円に相当します。住宅費、教育費、食費、保険料、旅行、家電の買い替えなど、家庭によって必要なお金は違います。
考えるべきなのは、「非課税枠がどれだけ余っているか」ではなく、「自分の家計にどれだけ投資する余裕があるか」です。
枠を埋めることが目的になると、資産形成の手段だったNISAが「毎年達成しなければならないノルマ」に変わってしまいます。
投資するのは「当面使う予定のないお金」
では、どのお金を投資に回すべきでしょうか。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、お金を大きく、
① 日々の生活に必要なお金
② 数年以内に使うことが決まっているお金
③ 当面使う予定のないお金
に分け、①と②は預貯金で準備し、投資は③の資金で行うことを基本としています。
「貯金が○万円あれば投資していい」「手取りの○%なら安全」という全国共通の基準があるわけではありません。独身か、子どもがいるか。住宅購入を控えているか。数年後に教育費が必要か。収入は安定しているか。同じ年収でも、投資に回せる金額はまったく違います。生活や近い将来に必要なお金までNISAに入れないことが重要です。
「NISA貧乏」はこうして起きる
問題はNISAそのものではなく、家計管理と投資の順番が逆転することです。
たとえば家計に月5万円しか余裕がないのに、「つみたて投資枠を使い切りたい」と毎月10万円を投資すれば、月5万円ずつ現金が不足します。
預金を取り崩してしのげても、そこに引っ越し、教育費、医療費、家電の故障などが重なれば、現金が足りなくなる可能性があります。NISAの商品はいつでも売却できますが、売りたいときに価格が上がっているとは限りません。相場の下落時に現金が必要になれば、含み損を抱えたまま売却せざるを得ないこともあります。
投資額を考えるときに重要なのは、「いくら入れられるか」ではなく、「このお金をしばらく使わなくても生活できるか」という視点です。
NISAの損失は損益通算できない
NISAには、もう一つ知っておきたい特徴があります。
利益が非課税になる一方、NISA口座で生じた損失は税務上ないものとして扱われます。そのため、特定口座や一般口座で得た利益との損益通算はできず、損失の繰越控除も利用できません。
たとえば、
課税口座で50万円の利益
NISA口座で30万円の損失
があっても、
「50万円-30万円=20万円の利益」
として税金を計算することはできません。NISAの30万円の損失は、税務上の損失として使えないからです。非課税というメリットだけでなく、損失が出た場合の扱いも知っておく必要があります。
「NISAで買える=安全」ではない
成長投資枠では個別株やETFなどにも投資できます。
しかし、「NISAで買える商品だから安全」ではありません。
一つの企業や特定の業種に資金を集中させれば、その企業や業界の業績悪化によって資産価値が大きく下がることがあります。
NISAが非課税にするのは、あくまで利益にかかる税金です。株価の下落を防いでくれるわけではありません。
金融庁やJ-FLECが長期・積立・分散を重視しているのも、値動きのある金融商品と付き合ううえでリスクを抑える基本的な考え方だからです。
「成長投資枠が余っているから何か買おう」では、順番が逆です。買いたい資産があるからNISAを使うのであって、NISA枠があるから何かを買うのではありません。
NISAを急がなくてもいい人
次のような状況なら、「とにかく早く満額投資する」必要はありません。
- 毎月の家計が赤字になっている
- 近いうちに使う予定のお金まで投資しようとしている
- 急な出費に対応できる現金がほとんどない
- 値下がりすると生活に支障が出るほど投資している
- 商品の内容を理解せず、「非課税だから」という理由だけで購入している
NISAは少額から利用できます。満額を投資した人が勝つ制度ではありません。
配当金の受取方法にも注意
NISAには、「非課税のはずなのに税金が引かれた」ということが起こり得る注意点もあります。
国内上場株式の配当金やETF・REITの分配金についてNISAの非課税扱いを受けるには、原則として証券会社の口座で受け取る「株式数比例配分方式」を選ぶ必要があります。
銀行口座で配当金を受け取る方式などでは、NISA口座で購入した株式であっても非課税にならない場合があります。
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「NISA貧乏」にならないための6つの確認
NISAを利用するなら、次のような状態になっていないか確認してみてください。
① 「非課税だから得」と投資額を増やしすぎていないか
② 生活費や近い将来使うお金まで投資していないか
③ 年間360万円を「使い切るべきノルマ」と考えていないか
④ 成長投資枠で特定の銘柄や資産に集中していないか
⑤ 値下がり時に生活費のため売却せざるを得ない投資額になっていないか
⑥ 「NISAで買える=安全」と思っていないか
一つでも心当たりがあれば、投資額を増やす前に家計全体を確認してみる価値があります。
NISAは「枠を埋めるゲーム」ではない
NISAは、資産形成に活用できる優れた制度ですが、制度を使うこと自体が目的になっては本末転倒です。
日々の暮らしに必要なお金
数年以内に使うお金
当面使う予定のないお金
を分ける。そのうえで、当面使わない資金の一部を、自分の目的やリスク許容度に合わせて運用する。NISAは非課税だからといって、投資のリスクまで消えるわけではありません。
【参考サイト】
※本記事は、NISA(少額投資非課税制度)の仕組みや注意点について、公的資料をもとに一般的な金融・投資教育の観点から解説したものです。特定の金融商品の購入・売却や投資方法を推奨するものではありません。
NISAは投資による利益を非課税にする制度であり、利益や元本を保証するものではありません。投資商品によっては元本割れする可能性があります。また、NISA口座で生じた損失は、課税口座の利益との損益通算や繰越控除ができません。
投資にあたっては、商品のリスクや手数料、投資期間、家計の状況などを確認し、ご自身の目的やリスク許容度に応じて判断してください。制度は変更される場合があるため、金融庁や利用する金融機関の最新情報もご確認ください。
