デジタル終活と相続で考える、お金の最後の出口戦略
NISAで投資する。預金を増やす。株式や投資信託を持つ。私たちは「どうやって資産を増やすか」については熱心に考えます。しかし、資産形成にはその先があります。
自分がその資産を管理できなくなったとき、どうするのか。
そして自分が亡くなったあと、残った資産をどうするのか。
1億円の資産を築いたとしても、家族がその存在を知らなければ、相続手続きは難しくなります。家族が資産を発見できたとしても、その人が法律上の相続人とは限りません。
資産には、「見つけてもらえないリスク」と「思った相手に渡らないリスク」があります。これからの資産形成には、この「最後の出口」まで考える視点が必要です。
資産のデジタル化が生む「見えない財産」
かつては、亡くなった人の机や金庫を調べれば、預金通帳や証券会社からの郵便物が見つかりました。しかし現在は違います。ネット銀行、ネット証券、コード決済、サブスクリプションなど、スマートフォンやメールの中にしか手掛かりがない資産や契約が増えています。
国民生活センターも「デジタル終活」を呼びかけています。実際に、「亡くなった兄のスマートフォンを解除できず、ネット銀行の口座を確認できない」「亡くなった夫のサブスクを解約したいが、IDやパスワードが分からない」といった相談が寄せられています。
資産を「持っている」だけではなく、家族がその存在にたどり着ける状態にしておく。これも資産管理の一部になったのです。
デジタル終活は「パスワードを渡すこと」ではない
ネット銀行や証券会社のID・パスワードをすべて紙に書いて家族に渡しておけばいいのでしょうか。杜撰な管理は不正アクセスや盗難など別のリスクを生みます。また、本人死亡後の手続きは、各金融機関やサービスの規約・相続手続きに従う必要があります。
家族に分かるようにしておきたいのは、「どこに何があるのか」です。たとえば、
| 分類 | 家族に残しておきたい情報 |
|---|---|
| 銀行 | 利用している金融機関名 |
| 証券 | 証券会社名・口座の存在 |
| クレジットカード | カード会社・契約の存在 |
| コード決済等 | 利用サービス |
| サブスク | 契約しているサービス |
| 保険 | 保険会社・保険種類 |
| 暗号資産 | 利用している交換業者等 |
| SNS・クラウド | 利用サービスと死後の希望 |
大切なのは、秘密情報を無防備に残すことではなく、必要なときに家族が資産や契約の存在を発見できる仕組みを作ることです。
資産発見は、相続のスタート
デジタル終活によって、「父はこのネット銀行を使っていた」「この証券会社に口座がある」と分かったとします。しかし、次に別の問題が出てきます。
その財産を誰が相続するのか。相続は、「本人が家族だと思っていた人なら誰でも相続できる」という制度ではありません。民法上、誰が相続人になるのかについてルールが定められています。この違いが特に問題になりやすいのが、再婚家庭です。
20年間親子でも、連れ子が相続人とは限らない
たとえば、AさんがBさんと再婚したとします。Bさんには前の結婚で生まれた子Cさんがいました。
AさんとCさんは20年間、一緒に暮らしてきました。CさんはAさんを父親のように慕い、Aさんも実の子と同じように大切にしてきました。
家族としての実態は、親子そのものです。しかし、AさんとCさんが養子縁組をしておらず、ほかに法律上の親子関係を生じさせる事情もない場合、CさんはAさんの「子」として法定相続人になるわけではありません。
ここには、感情と法律の大きなギャップがあります。長く一緒に暮らした。生活費を負担した。親子のように接してきた。それだけで法定相続人になるわけではないのです。
養子縁組すると「法律上の親子」になる
適法な養子縁組が成立すると、養子と養親との間には、養子縁組の日から法律上の親族関係が生じます。再婚相手の連れ子と養子縁組をすれば、その子は原則として養親の「子」として相続人になり得ます。
税務上も違いがあります。国税庁によれば、被相続人の配偶者や一親等の血族など以外の人が相続・遺贈によって財産を取得した場合には、原則として相続税額の2割加算の対象になります。一方、被相続人の直系卑属ではない人が養子になった場合、その養子は一親等の血族となるため、原則として2割加算の対象にはなりません。
【参考】国税庁「相続税額の2割加算」
「相続させたいから養子縁組をすればいい」と単純に考えるべきではありません。養子縁組は相続税対策のためだけの手続きではなく、法律上の親子関係を生じさせる重要な身分行為です。
また、相続税では法定相続人の数に算入できる養子の人数に一定の制限があるなど、民法上の相続と相続税上の扱いが完全に同じとは限りません。国税庁も、相続税の基礎控除などを計算する際に算入できる養子について、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までというルールを設けています。家族関係や相続税への影響まで含めて慎重に考える必要があります。
養子縁組しなくても「遺言」で渡す方法はある
養子縁組していない連れ子には財産を渡せないのでしょうか。遺言によって財産を遺贈する方法があります。「それなら遺言に『連れ子Cに全財産を渡す』と書けば解決する」と思うかもしれません。しかし、相続にはもう一つ重要な制度があります。遺留分です。
一定の法定相続人には、遺言によっても侵害できない一定の利益が保障されています。そのため、遺言の内容によって遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求の問題が生じる可能性があります。したがって、「遺言を書けば、必ず自分の希望どおりに何の問題もなく財産を渡せる」とも限りません。
また、養子縁組をしていない連れ子が遺贈によって財産を取得した場合、その人は通常、被相続人の配偶者や一親等の血族には該当しないため、相続税が発生するケースでは2割加算の対象になり得ます。遺言、養子縁組、生前贈与などは、それぞれ法律上・税務上の効果が異なります。
「誰に何を残したいのか」によって適切な方法は変わるため、具体的なケースでは弁護士、司法書士、税理士などの専門家に確認することが重要です。
相続には「時間制限」もある
もう一つ、資産の所在を生前に整理しておくべき理由があります。相続手続きには期限が関係するからです。
相続税の申告が必要な場合、原則として相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納税しなければなりません。しかも、「遺産分割が終わらなかったから10か月を過ぎても大丈夫」というわけではありません。
国税庁は、遺産が未分割でも申告期限が延びるわけではなく、期限までに申告・納税する必要があると説明しています。
【参考】国税庁「相続税の申告手続」
相続人を確認する。財産を探す。財産を評価する。遺言の有無を確認する。遺産分割について話し合う。必要なら相続税を計算して申告する。
これらを進めなければなりません。国税庁も相続税申告の準備として、相続人の確認、遺産の把握・評価、遺産分割などの手続きを案内しています。
資産には「2つの消失リスク」がある
ここまで整理すると、これからの資産管理には二つの視点が必要だと分かります。
一つ目は、見つけられないリスク。ネット銀行やネット証券などの存在を家族が知らず、相続財産を把握するのが難しくなるリスクです。これに備えるのがデジタル終活です。
そして二つ目が、思った相手に渡らないリスク。「家族だから当然この人が受け取るだろう」と思っていても、法律上の相続関係は違うかもしれません。
こちらに備えるのが、相続人の確認や遺言などの相続設計です。この二つは別々の問題です。「資産を発見できること」と「希望する形で承継できること」の両方を考える必要があります。
今日からできる「お金の出口」チェックリスト
難しい相続対策をいきなり始める必要はありません。まず、次の項目を確認してみてください。
- 自分が利用している銀行・証券会社を一覧にできるか
- ネット上だけで管理している資産がないか
- クレジットカードやサブスクを家族が把握できるか
- 保険契約を家族が把握しているか
- 自分の法定相続人が誰なのか分かっているか
- 再婚・連れ子など、家族関係と法律上の親族関係に違いがないか
- 「この人にこの財産を残したい」という希望があるか
- 遺言が必要な家族構成ではないか
- 資産情報を安全に更新・管理する方法を決めているか
一度作って終わりではありません。銀行口座を解約したり、証券会社を変更したり、新しいサービスを契約したりすれば情報は古くなります。年に1回程度、「資産の棚卸し」をする。それだけでも、残された家族が資産を探す負担は大きく変わります。
【参考】
※本記事について
本記事は、デジタル終活や相続について、一般的な法律・税務・資産管理の観点から解説したものです。相続人の範囲、遺言の効力、遺留分、養子縁組、相続税の取り扱いなどは、家族関係や財産の内容、遺言の有無など個別の事情によって異なります。また、相続税の2割加算についても、被相続人との関係などによって取り扱いが異なります。デジタル資産やオンラインサービスの相続・解約方法も各金融機関・事業者によって異なるため、実際の相続対策や手続きを行う際は、関係機関の最新情報を確認し、必要に応じて弁護士・司法書士・税理士等の専門家にご相談ください。
