投資・資産形成

家計簿より大切な「貸借対照表」という資産形成の羅針盤

家計簿と貸借対照表を比較し、資産形成における貸借対照表の重要性を解説するMoney Compassのアイキャッチ画像
筒井直子|Money Compass 編集長

家計の「貸借対照表(バランスシート)はありますか」と聞かれたらどうでしょう。ほとんどの人は「ありません」と答えるはずです。貸借対照表という言葉は、会社や経理担当者のものだと思われがちです。しかし、資産形成に本当に必要なのは家計簿よりも貸借対照表です。

「資産」「負債」「純資産」という考え方

どんなに小さい会社でも、「今月いくら売れたか」だけで会社経営はできません。必ず確認するのは、資産・負債・純資産です。あなたが”社長”である家庭の家計も同じです。

ところが多くの人が見ているのは「今月はいくら使ったか」という家計簿だけ。これは会社でいう損益計算書(P/L)だけを見ている状態です。もちろん収入や支出を把握することは大切ですが、それだけでは会社(家計)の健康状態は分かりません。

5,000万円の家があっても、住宅ローンがまだ4,200万円残っているなら、純資産2,100万円です。

家計簿だけでは見えない「資産と負債」

なぜ多くの人は純資産ではなく、「月々の支払い」だけを見てしまうのでしょうか。

理由は、人間の脳の仕組みにあります。行動経済学には「メンタル・アカウンティング(心の会計)」という考え方があります。お金を一つの財布として考えず、「住宅」「車」「教育」「通信費」「クレジットカード」と別々の箱に分けて管理する傾向があるのです。

そのため、「住宅ローンは仕方ない」「スマホは月8,000円程度だから大丈夫」「奨学金は将来、子どもが返すもの」というように、それぞれ別々に考えて、すべてを合計した負債の総額には目をつぶってしまいます。

「月々9,800円」「毎月○円」という表示は、総額ではなく月額で判断させるフレーミング効果を利用しています。一度「20万円」という価格を見たあとに「月々8,300円」と言われると、小さな金額に感じるアンカリング効果も働きます。

人は現在の便利さを優先する現在バイアスや、「将来は何とかなる」と考える楽観バイアスも持っています。そのため、住宅ローン、カーローン、スマホの分割払い、奨学金、リボ払いを別々に契約しながら、「全部合わせると5,000万円以上の返済義務がある」という事実に気づかないことがあります。

借金があることより怖いのは、借金の全体像が見えなくなることなのです。


今日から「株式会社わが家」の経営を始めよう

資産形成の第一歩は、まず、自分の家庭の貸借対照表を作ってみることです。

やることは難しくありません。現金、預金、NISA、iDeCo、投資信託、自宅、車など、今持っている資産を現在価値で書き出します。次に、住宅ローン、カーローン、教育ローン、奨学金、スマホの分割払い、カードローン、リボ払いなど、返済義務のあるものをすべて書き出します。そして、「資産−負債=純資産」を計算するだけです。

自宅や車を含めた資産が6,500万円あっても、負債が4,300万円なら、純資産は2,200万円です。これが「株式会社わが家」の純資産です。

そして一年後、もう一度同じ表を作ってください。純資産が2,200万円から2,450万円に増えていれば、株式会社わが家は250万円成長したことになります。年収が増えたかどうかより、この数字のほうが重要です。

簿記というと、「借方」「貸方」「仕訳」を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし簿記の本質は、資産・負債・純資産という視点で物事を見ることです。この考え方を身につけると、住宅ローン、残価設定ローン、保険、NISA、副業など、あらゆるお金の判断を「株式会社わが家」の純資産は増えるだろうかという一つの基準で考えられるようになります。

資産形成とは、お金を増やすテクニックではありません。「株式会社わが家」を毎年少しずつ価値の高い会社へ育てていくこと。 そのために必要なのは、家計簿をつけること以上に、自分の家庭を一つの会社として見る視点です。

家計簿が「今月のお金の流れ」を見るものなら、家庭の貸借対照表は「これまで積み上げてきた家計の現在地」を見るもの。収入の多さだけではなく、最終的にどれだけ純資産を残せているか。この視点を持つと、資産形成の景色は大きく変わります。

【参考サイト】

  • 金融庁「資産形成の基本」
  • 金融庁「NISA特設サイト」
  • OECD「Behavioural Economics and Financial Consumer Protection」
  • 本記事について
    本記事は、家計管理や資産形成について、貸借対照表(バランスシート)の考え方を応用して解説したものです。本記事でいう「家庭の貸借対照表」は、預貯金・有価証券・不動産などの資産と、住宅ローン・自動車ローン・カード利用残高などの負債を整理し、「純資産=資産-負債」という視点から家計の状態を把握するための考え方であり、企業が作成する正式な財務諸表とは異なります。また、家計簿による収支管理が不要という意味ではありません。資産形成では、日々の収支と資産・負債の両方を把握することが重要です。金融商品の価格や不動産価値などは変動するため、資産額は必要に応じて見直し、ご自身の家計状況やライフプランに合わせて活用してください。
ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶応義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
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