愛が冷めてもローンは残る ペアローンのしくみとリスク。離婚・収入減・金利上昇に備えよ!
「夫婦2人で借りれば、もっといい家が買える」。たしかに、ペアローンを使えば夫婦それぞれの収入を生かして住宅ローンを組めるため、単独で借りるより購入できる住宅の選択肢は広がります。
希望していたエリア。もう一部屋ある間取り。駅から近いマンション。「あと1000万円あれば手が届く」という場面では、魅力的な選択肢でしょう。しかし、忘れてはいけないことがあります。
借りられる金額が増えることと、無理なく返せる金額が増えることは同じではありません。ペアローンは便利な仕組みである一方、夫婦それぞれが長期間の債務を負う契約でもあります。
住宅は「幸せな未来」を想像して買うものです。だからこそ、契約するときには、あえて逆の未来も考えておく必要があります。
ペアローンとは「住宅ローンを2本組む」仕組み
ペアローンでは、一般的に夫婦などが同じ住宅を購入するため、それぞれ別々に住宅ローンを契約します。たとえば6000万円の住宅を購入するとき、夫=3000万円、妻=3000万円というように、それぞれが債務者として借り入れます。
金融機関や商品によって契約形態は異なりますが、お互いが相手のローンの連帯保証人となる商品もあります。1人では希望額まで借りられなくても、2人の収入を生かせば借入可能額を増やせる。これがペアローンの大きなメリットです。
また、それぞれが要件を満たせば住宅ローン控除を利用できる場合があり、それぞれ団体信用生命保険に加入できる商品もあります。つまり、ペアローンそのものが「悪い商品」なのではありません。
問題は、借入可能額が増えることで、本来なら買わなかった価格帯の住宅まで購入候補に入ってくることです。「借りられる」ことによって、「買える」と錯覚しやすくなる。ここに最初の落とし穴があります。
「銀行が貸してくれるから大丈夫」ではない
住宅ローンの審査に通ると、どこか安心してしまいます。しかし、「融資基準を満たしている」ことと、「その家庭が30年、35年と余裕をもって返済できる」ことは別問題です。
たとえば【フラット35】では、年収に占める年間返済額の割合である「総返済負担率」について、年収400万円未満なら30%以下、400万円以上なら35%以下という基準があります。
ここには住宅ローンだけでなく、自動車ローン、教育ローン、カードローン、分割払いやリボ払いなども含まれます。しかし、これはあくまで融資を受けるための基準です。
「この割合まで借りても家計は安全」という意味ではありません。
【参考】住宅金融支援機構「【フラット35(保証型)】ご利用条件」
家計には住宅ローン以外にも、食費、教育費、老後資金、税金、社会保険料、住宅の維持費などがかかります。住宅ローンで本当に見るべき数字は、「いくら借りられるか」ではなく、「生活を犠牲にせず、いくらなら返し続けられるか」なのです。
ペアローンが弱いのは「2人の収入」が崩れたとき
ペアローンの返済計画は、夫婦2人の収入を前提に組まれます。しかし、35年の間には、さまざまなことが起こります。
出産や育児で働き方が変わるかもしれません。転職するかもしれない。親の介護が始まる可能性もあります。病気や失業によって収入が減ることもあります。
実際、住宅金融支援機構も、離職や病気などによって収入が減少し返済が難しくなった人を対象に、返済期間の延長など返済方法を変更する仕組みを設けています。
大切なのは、「今、2人で払えるか」ではありません。「片方の収入が大きく減っても、家計を維持できるか」という視点です。
ペアローンを検討するときは、現在の世帯年収だけを見るのではなく、片働きになった場合や収入が減った場合でも生活できるかを試算しておきたいところです。
最大の問題が「離婚」
住宅を購入するとき、多くの夫婦は離婚することなど想定していません。当然でしょう。しかし住宅ローンは、感情とはまったく別の契約です。
離婚すれば夫婦という関係は解消できますが、金融機関との住宅ローン契約まで自動的に消えるわけではありません。ペアローンでは、それぞれが自分の住宅ローンについて債務を負っています。そのため、「離婚したからローンも半分にして終わり」とはいきません。
家を誰が取得するのか。残ったローンを誰が返すのか。住宅を売却するのか。売却価格でローンを完済できるのか。どちらか一方が住み続けるなら、ローンをどう整理するのか。夫婦関係の清算とは別に、不動産と債務の問題を処理しなければなりません。
法務省も、婚姻中に夫婦の協力によって取得した財産について、離婚時の財産分与の対象になり得ると説明しています。話し合いで財産分与がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判を利用する方法もあります。
【参考】
「家はあなたにあげる。ローンもよろしく」では済まない
住宅の所有権と、住宅ローンの債務は別の問題です。たとえば離婚するとき、「家は妻がもらい、これからは妻が住宅ローンを払う」と夫婦間で合意したとします。
しかし、夫婦がそう約束したからといって、金融機関との契約上の債務者まで自動的に変更されるわけではありません。住宅ローンを一本化したり、どちらか一方の名義に借り換えたりする場合には、金融機関との手続きや審査が必要になります。
つまり、夫婦間の約束だけで住宅ローンから抜けられるとは限らない。これが住宅ローンを抱えた離婚を難しくする理由の一つです。
売れば解決するとも限らない
「離婚したら家を売ればいい」そう考えるかもしれません。もちろん、住宅を売却して住宅ローンを完済できれば、問題を整理しやすくなります。
しかし、住宅の売却価格 < 住宅ローン残高 となっていたらどうでしょう。
住宅ローンが5000万円残っているのに、住宅が4500万円でしか売れないなら、500万円不足します。このように住宅の売却価格をローン残高が上回っている状態では、売却するだけで住宅ローンを完済できません。
住宅価格は必ず上昇するわけではありません。だから住宅購入時には、「買えるか」だけでなく、「途中で手放すことになったらどうなるか」という出口まで考えておく必要があります。
財産分与と住宅ローン控除にも注意
離婚によって住宅の持分を相手から取得する場合には、税金についても確認が必要です。
国税庁は、離婚に伴う財産分与によって元配偶者から住宅の共有持分を追加取得した場合、一定の要件を満たせば、その取得した持分について住宅ローン控除の対象になり得ると説明しています。また、夫婦で住宅を購入するときには、実際の資金負担と登記上の持分についても注意が必要です。
国税庁は、夫婦などが共有で住宅を取得した場合の借入金や持分について具体例を示しています。住宅を「2人で買う」ということは、単に住宅ローンを2本組むだけではありません。債務・所有権・税金がセットで動く契約なのです。
【参考】国税庁「離婚による財産分与で共有持分を追加取得した場合」
「年収の何倍なら安全」とは言い切れない
住宅ローンについて、「年収の5倍までなら大丈夫」「返済比率20%なら安全」といった目安を目にすることがあります。しかし、すべての家庭に当てはまる「安全な倍率」はありません。
同じ世帯年収1000万円でも、子どもがいない家庭と、これから2人の子どもの教育費がかかる家庭では違います。親から住宅資金の援助を受けられる家庭と、親の介護費用を負担する家庭でも違います。貯蓄が3000万円ある家庭と、頭金を払ったら預金がほとんど残らない家庭も同じではありません。
年収だけでは、住宅ローンの安全性は測れないのです。
ペアローンを組む前に「悪い未来」をシミュレーションする
住宅を買う前に、少なくとも次のことは夫婦で確認しておきたいところです。
- どちらかの収入が大きく減っても返済できるか
- 育児や介護で働き方が変わっても家計が回るか
- 金利が上昇した場合でも対応できるか
- 十分な生活防衛資金を残せるか
- 住宅を売却するとしたら、ローン残高はいくら残っているか
- 離婚した場合、住宅をどうするか
- どちらかが死亡・高度障害になった場合、団信でどこまでカバーされる契約なのか
幸せなときにこんな話をするのは、少し気が重いかもしれません。しかし、住宅ローンは数千万円という金額を数十年間にわたって返済する契約です。「そんなことは起こらないだろう」ではなく、「起こったとしても生活を立て直せるか」まで考えて借入額を決めるのが本当のリスク管理です。
ペアローンが悪いのではない。「借りすぎ」が危ない
ここまで読むと、ペアローンそのものを否定しているように見えるかもしれません。そうではありません。
2人に安定した収入があり、十分な貯蓄を残し、収入減や金利上昇にも耐えられる借入額に抑えているなら、ペアローンは合理的な選択肢になり得ます。危険なのは、「2人ならもっと借りられる」ことを、「2人ならもっと高い家を買っても大丈夫」と読み替えてしまうことです。
銀行が貸してくれる金額と、あなたの家庭が安心して返し続けられる金額は同じとは限りません。住宅は人生を豊かにするために買うものです。住宅ローンのために、その後の人生の選択肢まで失ってしまっては本末転倒です。
愛が冷めても、ローンは残る。
だからこそ、幸せなときにこそ、最悪のケースまで考えて契約する。ペアローンで本当に見るべきなのは、「2人ならいくら借りられるか」ではなく、「何かが変わっても、2人それぞれが人生を立て直せるか」なのです。
【参考サイト】
- 法務省「離婚を考えている方へ―財産分与」
- 裁判所「財産分与請求調停」
- 国税庁「共有の家屋を連帯債務により取得した場合の借入金の額の計算」
- 国税庁「住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等」
- 国税庁「離婚による財産分与で共有持分を追加取得した場合の住宅ローン控除」
- ※本記事について
本記事は、ペアローンの一般的な仕組みやリスクについて、住宅購入・家計管理の観点から解説したものです。ペアローンには、夫婦それぞれが住宅ローン控除の適用を受けられる場合があることや、単独で借りる場合より借入可能額を増やせるなどのメリットもあります。一方、夫婦それぞれが住宅ローン契約を結ぶため、離婚や収入減などが生じても、ローン契約や返済義務が自動的に解消されるわけではありません。借入条件、連帯保証、団体信用生命保険、住宅の持分、売却・借換え時の取り扱いなどは金融機関や商品によって異なります。契約前には「借りられる金額」だけでなく、どちらか一方の収入が減った場合の返済可能性や、売却時の残債、団信の保障範囲なども確認し、金融機関等の最新の公式情報をもとに判断してください。
