貸与型奨学金は「借金」なのか? 借りる前に知りたい返還額・利率・救済制度
「奨学金」という言葉から、返さなくてよい学費支援をイメージする人もいるかもしれません。
しかし、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、返還不要の「給付型」と、卒業後に返還する「貸与型」があります。
JASSO自身も、貸与奨学金を「返済必要」と表記し、2026年度の案内では「借入金」であることを明記しています。
つまり、貸与型奨学金は、教育のために利用する返還義務のあるお金です。
だからといって、奨学金を「危険な借金」と考える必要はありません。奨学金があることで、経済的な理由だけで進学を諦めずに済む学生もいます。
大切なのは、借りること自体を怖がることではなく、「いくら借り、卒業後にいくら返すのか」を理解したうえで利用することです。
この記事では、日本学生支援機構(JASSO)と文部科学省の公表資料をもとに、貸与型奨学金の仕組み、返還額、利率、延滞した場合の影響、返還が難しくなった場合の制度まで整理します。
貸与型奨学金だけで年間約109万人が利用している
JASSOの令和6年度実績によると、貸与型奨学金の利用者は、無利子の第一種奨学金が46万4,664人、有利子の第二種奨学金が62万2,517人でした。
合わせると108万7,181人です。
同年度の貸与額は、第一種が2,676億円、第二種が5,562億円。合計で8,238億円にのぼります。
JASSOによれば、旧日本育英会を含む制度開始以来、約1,556万人に累計約26兆円を貸与してきました。令和6年度末の総貸付残高は約9兆2,724億円です。
日本学生支援機構(JASSO)「奨学金事業に関するデータ集」
これだけ多くの学生が利用していることからも、貸与型奨学金は日本の高等教育を支える重要な仕組みであることがわかります。
一方で、利用者が多いからこそ、「奨学金だから大丈夫」と考えるのではなく、返還まで含めて理解しておく必要があります。
「奨学金の8割が貸与型」と単純には言えない
ここは注意が必要です。
JASSOの令和6年度実績では、給付奨学金の給付人員は35万628人でした。一方、貸与型は第一種と第二種を合わせて約109万人です。
数字だけを見ると、貸与型が圧倒的に多いように見えます。
しかし、給付型と貸与型を併用している学生もいるため、これらの人数を単純に足して「奨学金利用者の何%が貸与型」と計算することは適切ではありません。
そのため、本記事では旧タイトルで使っていた「奨学金の8割超が貸与型」という表現は使用しません。
数字を扱うときは、わかりやすさ以上に「その数字から本当にそこまで言えるのか」を確認することが重要です。
第一種は無利子、第二種は有利子
JASSOの貸与型奨学金には、大きく分けて第一種と第二種があります。
第一種奨学金は無利子。
第二種奨学金は有利子。
第二種も在学中は利子がかからず、貸与終了時に適用利率が決まります。利率には上限があり、年3.0%を超えることはありません。
一方、給付奨学金は返還不要です。
さらに現在は、授業料・入学金そのものを減免する「高等教育の修学支援新制度」もあります。
2025年度からは、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯の学生について、所得制限なく、国が定める一定額まで大学等の授業料・入学金を減免する制度も始まりました。学業など制度上の要件があります。
したがって、進学費用が足りないからといって、最初から貸与型を最大限借りるのではなく、まず給付型、授業料減免、大学独自の奨学金などを確認し、それでも不足する金額を貸与型で補うという順番で考えることが大切です。
月8万円を4年間借りると384万円
貸与型奨学金で最も重要なのは、「月額」だけを見ないことです。
たとえば第二種奨学金を月8万円、4年間利用するとします。
8万円×48か月ですから、貸与総額は384万円です。
JASSOが示している返還例では、20年間で返還する場合、
適用利率1.0%なら、返還総額は約426万円、毎月約1万7,700円。
適用利率2.0%なら、返還総額は約470万円、毎月約1万9,600円。
適用利率3.0%なら、返還総額は約517万円、毎月約2万1,500円です。
3%のケースでは、384万円を借りて、最終的には約517万円を返還する計算になります。
もちろん3%になるとは限りません。実際の利率は貸与終了時に決まり、利率の算定方式などによっても異なります。
重要なのは、
「月8万円借りる」ではなく、「384万円を借り、卒業後20年間にわたって返還する可能性がある」と考えることです。
クレジットカードの分割払いや住宅ローンと同じように、金融契約は「毎月いくら」だけを見ると負担が小さく見えます。
Money Compassでは、こうした考え方を「分割払いは借金です」でも解説しています。
第一種には「所得連動返還方式」もある
貸与型奨学金は、必ず同じ金額を払い続ける仕組みだけではありません。
2017年4月以降に第一種奨学金の奨学生として採用された人は、「定額返還方式」と「所得連動返還方式」を選択できます。
所得連動返還方式では、前年の課税対象所得などに応じて毎月の返還額が決まります。
収入が少ない時期には返還額も小さくなるため、卒業直後など収入がまだ低い時期の負担を抑えやすい仕組みです。
ただし、所得連動返還方式を利用できるのは原則として第一種奨学金です。第二種奨学金は定額返還方式となります。
奨学金を検討するときは、借りられる金額だけでなく、「どの返還方式を選べるのか」まで確認することが大切です。
「借りてまで大学へ行く価値」を年収だけで計算しない
旧稿では、400万円を借りて大学へ進学し、進学によって年収が50万円上がれば「8年で回収できる」といった単純な計算をしていました。
しかし、大学進学の価値をこのように年収差だけで計算するのは適切ではありません。
大学で得られるものには、専門知識、資格取得の機会、人的ネットワーク、就職先の選択肢など、単純な年収では測れないものがあります。
また、「大学に行かなかった場合の収入」と「大学に行った場合の収入」が同じ人について観測できるわけでもありません。
それよりも進学前に確認したいのは、
4年間で総額いくら必要なのか。
給付や授業料減免でいくら減らせるのか。
最終的に本人はいくら借りるのか。
卒業後の返還額を、想定する収入で無理なく支払えるのか。
という現実的な資金計画です。
大学の入試難易度と奨学金利用については、「大学の偏差値と『奨学金を借りる割合』は関係する? データから見える教育費格差」でも、公表データから何が言えて、何までは言えないのかを整理しています。
3か月以上延滞すると信用情報への登録対象になる
貸与型奨学金で特に知っておきたいのが、延滞した場合です。
JASSOによると、奨学金の返還を3か月以上延滞すると、個人信用情報機関への登録対象になります。
新たに返還を開始する人については、返還開始から6か月経過した時点で3か月以上延滞している場合に登録対象となり、その後は毎月判定されます。
JASSO「個人信用情報機関への個人情報・個人信用情報の登録」
JASSOは、延滞情報が登録されると、スマートフォンの分割払い、クレジットカード、住宅ローンなどを利用できなくなる場合があると説明しています。
教育目的で借りたお金であっても、返還を延滞した場合には信用情報に影響する可能性があります。
だからこそ、返せなくなってから放置することは避けなければなりません。
「返せない」と思ったら延滞する前に制度を使う
奨学金には、返還が難しくなった人のための制度があります。
代表的なのが「減額返還制度」です。
災害、傷病、経済的理由などで、当初の返還額では難しいものの減額すれば返還できる場合、一定の要件を満たせば、月々の返還額を3分の2、2分の1、3分の1または4分の1に減らすことができます。
その分、返還期間は延びます。適用期間の上限は通算15年です。
さらに、経済困難などで返還そのものが難しい場合には、一定期間返還を先送りする「返還期限猶予制度」もあります。
減額返還も返還期限猶予も、借りた元金そのものがなくなる制度ではありません。
しかし、返還が苦しくなったときに、延滞する前に利用を検討できる制度があることは知っておくべきです。
保証人を立てても、返すのは本人
貸与型奨学金を利用する際には、「機関保証」または「人的保証」を選びます。
人的保証では、条件を満たす連帯保証人と保証人を立てます。本人が返還できない場合には、連帯保証人や保証人に返還を求められることがあります。
一方、機関保証では一定の保証料を支払い、保証機関の保証を受けるため、連帯保証人や保証人は原則不要です。
ただし、機関保証を選んだからといって、本人の返還義務がなくなるわけではありません。
返還を延滞して保証機関がJASSOに代位弁済した場合、今度は保証機関から本人に請求されます。
「保証があるから大丈夫」ではなく、どの保証制度を選んでも、借りた本人が返還するのが原則です。
奨学金は「借りるか、借りないか」ではなく「いくら借りるか」
貸与型奨学金は、悪い制度ではありません。
経済的な事情によって進学の選択肢を失わないための、大切な仕組みです。
一方で、返還義務のあるお金である以上、「借りられるだけ借りる」という考え方もおすすめできません。
まず返還不要の給付型奨学金や授業料減免、大学独自の支援制度を確認する。
そのうえで不足する教育費を計算し、必要な範囲で貸与型を利用する。
さらに、卒業時の借入総額と、その後の毎月の返還額まで確認する。
この順番が大切です。
奨学金という名称であっても、貸与型なら将来の自分が返すお金です。
だからこそ、
「借りるべきか」だけではなく、「いくらなら無理なく返せるか」まで考えて進学する。
それが、教育費を「お金」の側から考えるときの重要な視点ではないでしょうか。
【注意】
※本記事は、奨学金制度に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の奨学金の利用・不利用、進学先等を推奨するものではありません。
※JASSOの貸与型奨学金には、無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金があります。貸与可能額、利率、返還期間、返還方式等は制度や利用条件によって異なります。
※第二種奨学金の適用利率は貸与終了時に決定します。本記事に記載した返還額はJASSOが公表する返還例であり、すべての利用者に同じ返還額が適用されるものではありません。
※減額返還制度、返還期限猶予制度などには所定の要件と手続きがあります。返還が難しくなった場合は、延滞する前にJASSOへ相談してください。
※奨学金・授業料減免制度は変更されることがあります。実際に利用を検討する際は、JASSO、文部科学省および在籍・進学予定大学等の最新情報をご確認ください。
※本記事は2026年9月1日時点で確認できる公表資料をもとに作成しています。
【参考サイト】
JASSO「個人信用情報機関への個人情報・個人信用情報の登録」
