教育とお金

子どもの教育費は「総額」だけでなく「使う時期」も考える

子どもの教育費は総額より使う時期が重要|教育費のタイミングを考える
筒井直子|Money Compass 編集長

子どもが6歳で小学校に入るとき、教育に大きなお金を使うのか。それとも、その一部を残し、18歳になった子ども自身が選んだ進路に使うのか。子育てを経験した今、私は教育費は「総額」だけでなく、「使う時期」も考える必要があると思っています。

教育費は、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学に加え、塾、習い事、留学まで広げれば上限がありません。一方、家計から出せる資金には限りがあります。「何にいくら使うか」と同時に、「何歳のときに使うか」という資金配分の視点が重要です。

公立小と私立小、6年間の学習費には約826万円の差

文部科学省「令和5年度子供の学習費調査(訂正版)」では、各学年の平均年額を合計した小学校6年間の学習費総額は、公立小学校が219万7,261円、私立小学校が1,045万7,700円です。差は826万439円になります。

(注)文部科学省の年間学習費総額は、小学校全体の児童を対象にした1年間の平均額です。ここでは単純に6倍するのではなく、同調査で公表されている1~6年生それぞれの平均額を合計しています。

ただし、この数字は「私立小の授業料が公立より826万円高い」という意味ではありません。学習費総額には学校教育費だけでなく、学校給食費、塾や習い事などの学校外活動費も含まれます。また全国平均であり、個々の学校や家庭の支出額を示すものでもありません。

それでも、小学校時代の教育関連支出には、公私で大きな差があることがわかります。私立小には独自の教育理念やカリキュラム、施設、人的環境などがあり、その価値を重視する家庭もあります。公立と私立のどちらが優れているかではありません。

限られた教育資金を、小学校段階にどこまで配分するのか ということです。

わが家も小学校受験を経験した

わが家は小学校受験を経験しました。私立のブランドへの憧れや親の見栄もあって受験しましたが、いま思えば子どもとの相性、通学時間、家計への負担までトータルで考えるべきだったと思います。特に通学にかかる時間という見えないコストは重要です。

徒歩通学より往復で1時間長く、年間200日登校すると仮定すると、6年間で約1,200時間になります。学校によって登校日数も通学時間も違うため、これは時間の大きさを考えるための一例です。

小学生にとって毎日の1時間は小さくありません。睡眠、遊び、読書、運動、家族との時間にも影響します。教育に使う資源は、お金だけではありません。子ども時代の貴重な時間や体力も有限です。ブランドや進学実績だけでなく、「毎日そこへ通うために何時間使うのか」も学校選びの条件に入れてよいと思います。

使わなかった教育費は、将来の選択肢に変えられる

公立小を選べば826万円が残るわけではありません。公立でも塾や習い事に多く使えば支出は増えますし、家庭によって教育費のかけ方は違います。ただ、小学校時代の支出を抑え、その分を将来の教育資金として確保できれば、18歳時点の選択肢を増やすことができます。大学の学費、遠方への進学に伴う住居費、留学、大学院進学など、成長してからまとまった資金が必要になるからです。

当面使わない資金の一部を株式などで運用する選択肢もありますが、「教育費を貯めること」と分けて考える必要があります。金融庁「資産形成の基本」によれば、株式や投資信託には預貯金より高いリターンを期待できる一方、元本割れリスクがあると説明しています。長期・積立・分散投資も将来の利益を保証するものではありません。

教育資金には、老後資金とは違って使う時期がある程度決まっているという特徴があります。数年後に必要になる学費まで値動きの大きな資産で持てば、進学直前の相場下落で必要額を確保できない可能性があります。教育資金は、増やすこと以上に「必要なときに使えること」が大切です。

18歳なら、本人が進路を選べる

小学校入学時の教育を決めるのは、ほとんどの場合、親です。一方、18歳になれば、本人が「何を学びたいか」「どこで学びたいか」を具体的に考えられるようになります。

大学へ行きたい。地元を離れて学びたい。海外へ留学したい。芸術や専門分野を学びたい。大学院まで進みたい。こうした希望が見えてきたとき、家計に余力あることに大きな意味があります。

教育資金を早い段階ですべて使うのではなく、その一部を本人が選択できる年齢まで残しておく。これは単なる節約ではなく、将来の選択肢を残しておくことだと思います。

奨学金は「給付」と「貸与」を分けて考える

進学資金を考えるときは、奨学金についても正確に理解しておきたいところです。

日本学生支援機構(JASSO)には返還不要の給付奨学金がある一方、返還が必要な貸与奨学金もあります。貸与奨学金では、第一種が無利子、第二種が有利子です。貸与奨学金は、家庭の経済状況にかかわらず進学機会を支える重要な制度です。

家庭で教育資金を準備できれば、奨学金に頼らず、卒業後の返還負担を抑えられる可能性があります。「小学生のときにいくら使うか」は、「18歳のときにどれだけ選択肢を残せるか」とつながっています。

教育費は「高いほど良い」わけではない

家庭の方針や経済力次第では、子どもが小さいうちに多額の教育資金を使えるのであれば問題ありません。本人が夢中になれる習い事や、家庭では得にくい体験にお金を使う価値はあります。しかし、サラリーマン家庭が無理をすると、あとで家計に響いてくるのです。

支出額と教育の価値は同じではありません。本を読む。外で遊ぶ。運動する。家族で話す。図書館や博物館へ行く。大きなお金をかけなくてもできる経験はたくさんあります。高額な教育サービスを増やす前に、「この支出によって何を得たいのか」を考えることが大切です。

教育費は「誰が選び、いつ使うか」で考える

私立小学校が最良の選択になる家庭もあれば、地域の公立小学校を選び、教育資金を中学以降や大学、留学に厚く配分する家庭もあります。

教育費を考えるとき、「大学まで総額いくら必要か」だけではなく、「誰が選んだ教育に、何歳で、いくら使うのか」まで考えてみる。

教育費は、愛情の金額ではありません。限られたお金と、限られた子どもの時間を、いつ、何に使うのか。まだ見えていない将来の選択肢のために、どれだけ残しておくのか。

子どもが望んだわけでもない小学校受験にお金をかけすぎ、その後、家計が苦しくなった一人の母親の反省からこの記事を書きました。本人が18歳になり「この大学に進学したい」「留学したい」という欲が出たときに、笑顔で教育費を出してあげられるほうがいいと私は思います。子育てを振り返った今、教育費は「総額」だけではなく、配分と時期で考えるべきというのが結論です。

【参考資料】

文部科学省「令和5年度 子供の学習費調査(令和6年12月25日公表資料・訂正版、令和8年1月16日公表)」

金融庁「NISA特設ウェブサイト 資産形成の基本」

日本学生支援機構(JASSO)「給付奨学金(返済不要)」「貸与奨学金(返済必要)」

※本記事の学習費は、文部科学省の全国平均を使用しています。個々の学校や家庭の実際の支出額を示すものではありません。

本記事は教育費や資産形成について考えるための一般的な情報提供を目的としており、特定の学校、金融商品、投資方法を推奨するものではありません。投資には価格変動や元本割れのリスクがあります。教育資金の準備・運用は、資金を使用する時期、家計状況、リスク許容度などを踏まえて判断してください。

ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶応義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
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