「月々1万円」「節税になる」を数字に翻訳する ワンルーム投資の営業トークをどう読むか
「将来の年金代わりになります」「家賃収入でローンを返せるので、実質的な負担はわずかです」「節税にもなります」「この条件の物件は今しかありません」
投資用ワンルームマンションの説明では、こんな言葉を目にすることがあります。一つひとつを聞けば、実にもっともらしく感じます。老後のお金は心配です。預金だけではなかなか増えない。毎月家賃が入って、ローン返済もできて、さらに節税になるのなら、悪くない話に思えるかもしれません。
でも、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。私たちが買うのは「月々1万円の商品」ではありません。数千万円の不動産と、場合によっては30年、35年と続くローンです。
営業トークを聞くときに大切なのは、「その言葉が正しいか、間違っているか」だけではありません。その言葉を、契約全体の数字に戻してみること。今回は、投資用マンションの営業でよく聞く言葉を、数字に翻訳して考えてみます。
「老後が不安」と「この物件を買う」は別の話
「年金だけでは心配ですよね?」 そう言われれば、多くの人が「確かに」と思うでしょう。老後への備えが必要だという話そのものは、不自然ではありません。
ただし、老後への備えが必要であることと、目の前のワンルームマンションを購入することは、まったく別の判断です。ここを一続きにして考えてしまうと、「老後が心配」→「何か資産形成をしなければ」→「だからこのマンションを買おう」と、途中にあるはずの比較検討が抜け落ちてしまいます。
老後資金を準備する方法には、預貯金、NISAなどを使った金融資産への投資、保険、不動産など複数の選択肢があります。まず考えたいのは、「この物件を買うかどうか」ではなく、「自分は何のために、いくら準備したいのか」です。
目的と手段を分けて考えるだけで、話はずいぶん見えやすくなります。
「月々1万円」ではなく「契約総額」で見る
投資用マンションでは、「家賃収入を差し引けば、毎月の持ち出しは1万円程度です」といった説明をされることがあります。月1万円なら、スマートフォン代や保険料のような感覚で受け止めてしまうかもしれません。しかし、契約しているのは月額1万円のサービスではありません。
仮に3,000万円の物件を、長期ローンを組んで購入するなら、本来見るべきなのは、物件価格、頭金、借入額、金利、ローン期間、総返済額、管理費、修繕積立金、固定資産税、賃貸管理費、空室期間、家賃の下落、将来の売却価格です。
「毎月いくら」から考えると小さく見えますが、「最終的にいくら支払い、いくら残るのか」まで視野を広げると、同じ契約でも見え方が変わります。
「家賃でローンを返せます」を翻訳する
「家賃収入でローンを返済できます」 これも魅力的に聞こえます。でも、家賃収入がそのままローン返済に使えるわけではありません。実際には、さまざまな支出があります。そこで私は、この言葉を聞いたら、頭の中で次のように置き換えて考えます。
「家賃でローンを返せます」ではなく、「家賃からすべての費用を差し引いた後、毎年いくら手元に残るのか」です。
さらに、1年間ずっと入居者がいる前提なのか、退去後、次の入居者が決まるまで何か月かかる想定なのか、家賃は現在と同じ金額が続く前提なのか、管理費や修繕積立金が上がった場合はどうなるかまで見ます。
たとえば「空室が3か月続いた場合」の年間収支も計算してみる。一つ条件を変えるだけで収支が大きく変わるなら、その投資は「家賃で返済できるから安心」と単純には言えません。
「節税になる」は、投資そのものの利益とは分ける
「節税になります」 これも投資用不動産でよく聞く言葉です。ただ、ここで気をつけたいのは、税金が減ることと、その投資自体で利益が出ることは別だということです。
仮に税負担が減ったとしても、物件の購入価格、借入利息、諸費用、管理費、修繕費、売却時の価格などまで含めた投資全体がプラスになるとは限りません。
そこで、「いくら税金が減るのか」と、「この不動産投資全体では、最終的にいくら利益または損失が出るのか」を別々に考えます。「節税になる」という一言だけで判断するのではなく、具体的な金額で確認することが大切です。
税務上の扱いは所得や物件、契約内容などによって変わるため、必要に応じて税務署や税理士などに確認した方が安心です。
「資産になります」は、将来いくらで売れるのかまで考える
マンションを購入すれば、不動産という資産を持つことになります。ただし、「資産であること」と「購入時と同じ価値が残ること」は同じではありません。
そこで、「資産になります」という言葉を聞いたら、「10年後、20年後にいくらで売れる前提なのか」に置き換えます。
その価格に根拠はあるのか。同じ地域の中古物件はいくらで取引されているのか。築年数が進んだとき、家賃や売却価格をどう想定しているのか。ローン残高より売却価格が低い場合、売却するときに自己資金が必要になる可能性もあります。重要なのは、購入時点の価格だけではありません。「途中で売りたくなったとき、どうなるか」まで考えておくことです。
「みんな買っている」は自分の収支とは関係がない
「同年代の会社員の方がたくさん購入しています」「医師や公務員の方にも人気があります」と言われることもあります。周囲の人が選んでいると聞くと、安心材料に感じるかもしれません。でも、他の人が買っていることと、自分にとって合理的な投資であることは別です。年収も違います。金融資産も違います。家族構成も違います。住宅ローンなど他の借入も違います。
どこまで損失を受け入れられるかも人によって違います。必要なのは、「誰が買っているか」ではなく、「自分の家計でこの投資を持ち続けられるか」という確認です。
「今しかありません」と言われたら、一度離れる
不動産は数千万円単位になることもある高額な契約です。それなのに、「他にも購入希望者がいます」「この条件は今日までです」「審査だけでも先に通しましょう」と言われると、考える時間が惜しく感じてくることがあります。しかし、金額が大きい契約ほど、本来は逆です。時間をかけて考える理由があります。
「今決めなければならない」と言われたときほど、「今日決めないことで何を失うのか」を具体的に考えます。それが単に「この物件を買えなくなる」だけなら、同じ条件で比較できる別の物件がないのかを調べる余地があります。
一度その場を離れ、自分で数字を確認する。高額な契約では、それだけでも判断は変わることがあります。
営業トークを「数字」に翻訳する
営業担当者を信用してはいけない、という話ではありません。担当者の人柄と、投資としての条件は別に考える、という話です。感じの良い担当者でも、物件価格が適正とは限りません。説明が丁寧でも、将来の家賃や売却価格が保証されるわけではありません。
営業トークを聞いたら、そのまま受け取らず、一度数字に翻訳します。
「年金代わりになります」
→ 老後まで保有した場合、累計でいくら手元に残る想定なのか。
「家賃でローンを返せます」
→ 空室や費用を含めた年間収支はいくらか。
「月々の負担はわずかです」
→ ローンの総返済額と、保有期間全体の支出はいくらか。
「節税になります」
→ 税負担の減少額はいくらか。投資そのものの損益とは分けて考える。
「資産になります」
→ 10年後、20年後にいくらで売れる想定なのか。その根拠は何か。
「今しかありません」
→ 今日決めないことで、本当に失うものは何か。
言葉を数字に置き換えると、営業トークだけでは見えなかった条件が見えてきます。
「買う理由」だけでなく「買わない理由」も探す
ある物件が気になり始めると、メリットばかり集めたくなることがあります。だから私は、意識してデメリットも確認する方がいいと思います。
- 空室になったらどうなるか
- 家賃が下がったらどうなるか
- 金利が上がったらどうなるか
- 管理費・修繕積立金が増えたらどうなるか
- 大きな修繕が必要になったらどうなるか
- 売りたいときに売れなかったらどうなるか
- 希望する価格で売れなかったらどうなるか
そして、それらを確認したうえで、それでもこの物件を持ちたいかを考えます。
デメリットを理解したうえで「それでも買いたい」と思うのでは、同じ結論でも意味が違います。
自分の判断を、自分の手に戻す
ワンルームマンション投資に限らず、高額な金融商品や不動産の説明には、わかりやすい言葉が使われます。「老後対策」「節税」「資産形成」「月々わずか」「家賃収入」どれも魅力的な言葉です。
だからこそ、その言葉だけで判断しないことが大切です。
私は、営業の言葉を聞いたら、
「それを金額にすると、いくらなのか」
と考えることにしています。
月額ではなく総額。
現在ではなく10年後、20年後。
メリットだけではなく、条件が悪化した場合。
営業担当者の説明ではなく、自分自身の家計。
最後に確認したいのは、
「私はこの物件そのものを買いたいのか。それとも、この話を聞いているうちに買いたくなったのか」
ということです。
営業の言葉を数字に翻訳する。
それだけでも、自分の判断を自分の手に取り戻しやすくなるのではないでしょうか。
参考サイト
東京都消費生活総合センター|投資用マンション購入の判断は慎重に!
国土交通省|投資用マンションについての悪質な勧誘電話等にご注意ください
※本記事は、投資用不動産の勧誘や意思決定について一般的な情報を提供することを目的としています。特定の事業者の営業手法を評価・批判したり、特定の不動産の購入・売却を推奨したりするものではありません。
※物件の収益性や税務上の扱いは、物件、借入条件、所得、保有期間などによって異なります。個別の契約・税務・法律上の判断が必要な場合は、不動産取引に詳しい専門家、税理士、弁護士などへご相談ください。
※契約の解除やクーリング・オフの可否は、売主、契約場所、契約内容など個別事情によって異なります。契約や勧誘についてトラブルや不安がある場合は、消費生活センターなどの公的相談窓口へご相談ください。
