教育とお金

大学の偏差値と「奨学金を借りる割合」は関係する? データから見える教育費格差

大学の偏差値では見えない教育費格差を、奨学金・学費・返還額のデータから読み解くイメージ
筒井直子|Money Compass 編集長

大学進学は、いまや特別な進路ではありません。

文部科学省の「令和7年度学校基本統計」によると、文科省の定義による2025年度の大学(学部)進学率は58.6%。同世代の半数を大きく超える若者が大学へ進む時代です。

文部科学省「令和7年度学校基本統計」

では、その4年間に必要なお金を誰が負担しているのでしょうか。

親が学費や生活費を負担する家庭もあれば、給付型奨学金や授業料減免を利用する学生もいます。そして、日本学生支援機構(JASSO)の第一種・第二種奨学金など、卒業後に返還する「貸与型奨学金」を利用する学生もいます。

大学選びでは偏差値や就職実績に目が向きがちです。しかし、お金の面から考えればもう一つ重要な数字があります。

「卒業するとき、いくらの返還義務が残っているのか」です。

この記事では、河合塾Kei-Net、JASSO、文部科学省、大学が公表する資料をもとに、大学の入試難易度と貸与型奨学金について「データから何がわかり、何までは言えないのか」を整理します。

「奨学金利用率」と「借りている割合」は同じではない

最初に区別しておきたいのが、給付型と貸与型です。

JASSOの第一種奨学金は無利子の貸与型、第二種奨学金は有利子の貸与型で、原則として卒業後に返還します。一方、給付奨学金は返還する必要がありません。

JASSOの2024年度のデータ集では、大学生273万610人に対して奨学生数は86万5,104人、利用割合は31.7%とされています。ただし、これは貸与型だけの割合ではなく、JASSOの貸与・給付を合わせた数字です。

さらにJASSOの「令和6年度学生生活調査」でいう「奨学金受給者」には、JASSOの給付・貸与だけでなく、JASSO以外の給付・貸与奨学金も含まれます。

つまり、

「奨学金を利用している学生が○%」=「○%の学生が借金をしている」

ではありません。

貸与型奨学金の仕組みや、給付型との違いについては、Money Compassの「奨学金の8割超が『貸与型』という現実 借金を負って社会に出る若者たち」でも詳しく整理しています。

Money Compass「奨学金の8割超が『貸与型』という現実」

「偏差値」と「貸与割合」は単純には結びつけられない

入試難易度を見るときによく使われるのが、河合塾Kei-Netの「入試難易予想ランキング表」です。

2026年6月15日更新版では、河合塾が予想する合格可能性50%のラインをボーダーラインとして示しています。

ただし河合塾自身が、この数字はあくまで入試難易度を表すものであり、大学の教育内容や社会的位置づけを示すものではないと説明しています。

河合塾Kei-Net「入試難易予想ランキング表」

奨学金についても同じ注意が必要です。

JASSOは「学校毎の貸与及び返還に関する情報」を公開しており、2026年7月3日に2024年度末時点のデータへ更新しています。

ところがJASSO自身が、この情報について、各学校の一側面を示したものであり、学校の状況を相対的に比較できるものではないと注意しています。

JASSO「学校毎の貸与及び返還に関する情報」

したがって、このデータだけを使って、

「偏差値が低い大学ほど奨学金を借りる学生が多い」

と結論づけることはできません。

ここは非常に重要です。

それでも、大学によってJASSO貸与型の利用規模は違う

一方、各大学が公表している数字を見ると、JASSOの貸与型奨学金の利用規模が大学によって異なること自体は確認できます。

慶應義塾大学は2026年度の案内で、第一種・第二種奨学金について「塾生の約12名に1名が利用」と説明しています。

早稲田大学も、JASSOの貸与型奨学金について、学部学生4,000名以上、大学院生1,000名以上が利用していると案内しています。

ただし、この二つの数字さえ単純比較には向きません。

大学によって学生数も違えば、自宅外通学者の割合、学費、大学独自の給付型奨学金、授業料減免制度なども違うからです。

JASSO貸与型の利用割合が低いからといって、「経済的に困っている学生が少ない」とは限りません。

反対に、利用割合が高いからといって、その大学の学生の家庭所得が低いとも断定できません。

奨学金利用を左右するのは「家庭所得」だけではない

学生が貸与型奨学金を利用するかどうかには、さまざまな要素が関係します。

私立か国公立か。文系か理工系か。自宅から通うのか、一人暮らしをするのか。大学独自の給付型奨学金があるのか。親が学費や生活費をどこまで負担するのか。

制度そのものも変化しています。

2025年度からは、高等教育の修学支援新制度が拡充され、多子世帯の学生については、所得制限なく、国が定める一定額まで大学等の授業料・入学金を減免する仕組みが始まりました。学業など制度上の要件もあります。

文部科学省「高等教育の修学支援新制度」

こうした給付や減免が広がれば、今後、貸与型奨学金を必要とする学生の割合が変化する可能性もあります。

教育費は「大学4年間で総額いくらか」だけではなく、いつ、誰が、どのように払うかまで考える必要があります。

この点については「子どもの教育費は『総額』だけでなく『使う時期』も考える」でも詳しく解説しています。

Money Compass「子どもの教育費は『総額』だけでなく『使う時期』も考える」

「難関大学の学生は裕福」とも単純には言えない

家庭の経済状況と大学進学の関係を考えるうえで興味深い資料が、東京大学の「2023年度学生生活実態調査」です。

東京大学は調査の総合分析で、平均的には経済的に恵まれた家庭出身の学生が多いことに注目されがちだとする一方、経済的な事情に悩む学生もいると指摘しています。

さらに、学部生1,428人のうち、親の年収について「わからない」が342人、無回答が132人で、合わせて33.2%について年収情報が得られていません。

東京大学自身も、家計支持者の年収が高い傾向に注目が集まる一方、不明・無回答が多く、回答の正確性についても注意が必要だとしています。

東京大学「2023年度学生生活実態調査」

この調査から「難関大学には裕福な家庭の学生しかいない」と結論づけることはできません。

まして、一つの大学の調査から、すべての大学について「偏差値と家庭所得にはこのような関係がある」と一般化することもできません。

貸与型奨学金で重要なのは「卒業時の残高」

では、大学進学をお金の面から考えるとき、何を見るべきでしょうか。私は大学の名前や偏差値だけでなく、卒業時に本人の貸借対照表がどうなっているかを見ることが重要だと考えます。

たとえば、JASSOの第二種奨学金を月10万円×4年間=480万円借りた場合の返還例はこちらです。

適用利率1.0%
返還総額:約532万円
毎月の返還額:約2万2,172円
返還期間:20年

適用利率2.0%
返還総額:約587万円
毎月の返還額:約2万4,478円
返還期間:20年

適用利率3.0%
返還総額:約646万円
毎月の返還額:約2万6,914円
返還期間:20年

利率3%の場合、元金480万円に対して、約166万円の利子を含めて返す計算になります。なお、第二種奨学金の基本月額に係る利率は年3.0%が上限で、実際の適用利率は貸与終了時に決まります。

卒業時に480万円の返還義務があれば、その後、毎月一定額を家計から返していくことになりますが、奨学金のおかげで大学へ進学できる人もいます。大切なのは、借りる時点で月額だけを見るのではなく、卒業時の借入総額と、その後の返還額まで把握しておくことです。

卒業後に経済的な理由などで返還が難しくなった場合には、一定の要件のもとで月々の返還額を減らす「減額返還制度」や、返還を一定期間先送りする「返還期限猶予制度」もあります。

JASSO「返還が難しくなった場合」

偏差値だけでは見えない「卒業時のスタートライン」

大学受験では、偏差値という数字が目立ちますが、お金の面から見れば、

入学時にいくら必要なのか。
4年間でいくらかかるのか。
給付や減免をどれだけ利用できるのか。
卒業時にいくら返還義務が残るのか。

も同じくらい重要な数字です。

今回確認した公的データだけから、「偏差値が低い大学ほど奨学金を借りる学生が多い」と断定することはできません。

しかし、大学進学に必要なお金を誰が負担するかによって、同じ「大学卒業」という時点でも、手元の資産や返還義務に違いが生じることは確かです。大学選びでは、偏差値や就職実績だけではなく、卒業するときの自分の財務状態まで想像してみる。それが、教育を「お金」の側から考えるときの大切な視点ではないでしょうか。

【注意】
※本記事は、大学や奨学金制度に関する一般的な情報提供を目的とするもので、特定の大学への進学や奨学金の利用・不利用を推奨するものではありません。

※河合塾Kei-Netのボーダーラインは入試難易度を示す指標であり、大学の教育内容、研究力、卒業生の能力、就職価値などを評価するものではありません。

※JASSOは「学校毎の貸与及び返還に関する情報」について、各学校の一側面を示す情報であり、状況を相対的に比較できるものではないとしています。

※奨学金の利用には、家庭の経済状況だけでなく、学費、住居費、専攻、通学形態、大学独自の支援制度、給付型奨学金、授業料減免など複数の要因が関係します。

※第二種奨学金の利率や返還額は貸与条件等によって異なります。実際に利用する場合は、JASSOおよび在籍大学の最新情報をご確認ください。

※制度・統計は変更・更新されることがあります。本記事は2026年9月1日時点で確認できる公表資料をもとに作成しています。

【参考】

ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上|Money Compass 編集長
慶應義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌・広報誌などに携わってきました。Money Compassでは、生活の中で感じたお金の疑問を出発点に、公的機関の一次資料や統計を確認しながら書いています。
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