教育とお金

留学は教育費か、それとも投資か? 「海外経験」で終わらせないお金の使い方

留学費用と将来への投資をイメージした、飛行機・大学・お金・学生のアイキャッチ画像
筒井直子|Money Compass 編集長

海外留学にはお金がかかります。授業料、航空券、住居費、保険、生活費。円安になれば、家計の負担はさらに大きくなります。大学生のお子さんが留学を考えているなら、私費留学を探す前に、まず調べてほしいことがあります。

在籍大学が、どの海外大学と交換留学協定を結んでいるか。交換留学制度には、想像以上に大きな経済価値があるからです。

また、留学費用を見るときは、授業料や航空券だけでなく、住居の仕組みも知っておきたいところです。とくにホームステイは、日本では「国際交流」のイメージが強い一方、海外のホスト家庭にとって家計収入の一部という側面もあります。わが家の高校留学でも、食事付きの契約だったにもかかわらず十分な食事が提供されず、途中で滞在先を変更した経験があります。

この問題については、「ホームステイガチャはなぜ起きる? 海外では『国際交流』であり『空き部屋ビジネス』でもある」に書きましたのであわせてご覧ください。

「交換留学」か「私費留学」か

同じUBCでも「交換」か「私費」かで500万円以上違う

具体例で考えてみます。

カナダの名門、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)は、東京大学の全学交換留学制度「USTEP」の協定校です。東京大学は、USTEPについて、東大に授業料を納めていれば、留学先大学の授業料を支払わずに学べる制度だと明記しています。UBCも正式な交換留学生について、UBCへの授業料は不要で、在籍大学に授業料を支払う仕組みとしています。

東京大学の学部授業料は、2025年度以降の入学者なら年間64万2,960円です。

では、交換留学ではなく、自分でUBCのVisiting Undergraduate Studentとして1年間学ぶとどうなるでしょうか。

UBCの2026/27年度の外国人Visiting Studentの授業料は、1単位1,789.18カナダドルです。仮に年間30単位を履修すれば5万3,675.4カナダドル。1カナダドル=115円で計算すると、授業料だけで約617万円になります。住居費や食費、保険、渡航費などは別です。

つまり同じUBCで1年間学ぶとしても、

1年間の授業料の考え方
東大から交換留学東大の授業料 約64万円
UBCへ私費でVisiting Student約617万円
約553万円

となります。

もちろん、交換留学でも住居費、生活費、航空券、保険、大学所定の学生費などは必要です。それでも、「どこで暮らすか」にかかる費用は同じでも、「どこに授業料を払うか」で500万円以上違う可能性があるわけです。

早稲田の国際教養学部は、留学ネットワークに価値がある

早稲田大学国際教養学部(SILS)は、さらにわかりやすい例です。学生は、原則として1年間の海外留学が必修です。留学先は、早稲田大学全体の協定校を利用するプログラムと、国際教養学部独自の協定校から選ぶプログラムがあります。

SILSは、Exchange ProgramとSILS独自の交換留学について、留学中も早稲田大学の学費を払い、留学先の学費は原則免除としています。

2026年度入学者のSILSの年間納入額は、2年目以降で約169万円です。UBCへ私費で行けば授業料約617万円。SILSから交換留学なら、早稲田への学費約169万円。差はおよそ448万円です。

しかも、SILSの場合、留学そのものがカリキュラムに組み込まれています。大学の価値を偏差値や就職実績だけで見るのはもったいない。海外留学を考えている家庭なら、どの大学と交換協定があるか、何人派遣できるか、学内選考にはどんな条件があるかまで大学選びの材料にしてよいと思います。

交換留学ネットワークは、学生が大学に在籍することで使える、一種の「制度資産」だからです。とはいえ、誰でも希望する大学へ行けるわけではありませんし、交換留学には派遣枠があり、GPAや語学力などを含む学内選考があります。東大のUSTEPでも協定校ごとに応募条件や人数が定められています。

交換留学は「安い留学」ではない

交換留学を「安く海外へ行く方法」と考えると、本質を見誤ると思います。最大のメリットは、本来なら外国人学生として数百万円の授業料を払う海外大学で、日本の大学の授業料を払いながら学べることです。

文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」も、交換留学について「在籍大学等への学費だけで海外大学への追加の学費の負担なく単位を取りながら留学できる」と説明しています。ただし、交換留学には制約もあります。行き先は協定校から選ぶのが基本で、希望校に必ず行けるわけではありません。

そこで出てくるもう一つの選択肢が、私費留学です。

私費留学で買っているのは「自由」

私費留学は高いです。留学先の授業料も原則として自分で負担しますし、滞在中の住居も自分で探す必要があります。日本の大学を休学すれば卒業時期が延びることもあります。

それでも、私費留学にしかない大きなメリットがあるとしたら、それは行き先を自分で決められることです。

「この国へ行きたい」ではなく、「この学校で学びたい」。

「英語を勉強したい」ではなく、「この街でデザインを学びたい」。

そこまで目的が具体的なら、協定校の中から留学先を選ぶより、私費留学のほうが合理的なこともあるでしょう。交換留学が「制度を使う留学」なら、私費留学はお金を払って自由を買う留学です。

海外留学留学は人的資本への投資

私は、留学を人的資本への投資だと考えています。人的資本とは、知識、技能、経験、人脈など、その人が将来にわたって価値を生み出す力です。

海外で暮らした。英語を使った。外国人の友達ができた。観光した。もちろん、それだけでも人生経験として価値があります。しかし、数百万円を使う「投資」として考えるなら、もう一歩先まで欲張りたい。

その一年が、帰国したあと何として残るのか。

専門知識なのか。ポートフォリオなのか。仕事につながる人脈なのか。あるいは「自分にはこの仕事は向いていない」という発見なのか。

留学のROI(投資収益率)を考えるなら、「楽しかったか」だけではなく、留学前より将来の選択肢が増えたかを見るべきだと思います。

20歳なら「時給」だけで仕事を選ばなくてもいい

現在、20歳の大学生である私の息子は、大学を休学し、スペインのバルセロナのデザインスクール(Elisava Barcelona School of Design and Engineering)に私費留学しています。ビザにはワーキングホリデーを選びました。

ワーキングホリデー制度は、休暇を主目的としながら、滞在資金を補うための就労が認められる制度です。

息子は現地で、バルセロナ発のファッションブランドでアシスタント業務をしたり、映像制作会社で働いたり、知人のワイナリーで仕事をしています。日本食レストランでも働いているようです。

親が数百万円を負担し、本人も大学を休学して、20歳の貴重な一年を海外で過ごす。そう考えると、「時給はいくらか」だけではなく、「その時間から何を持ち帰れるか」で仕事を選んでほしいと思います。

同じ100時間働くとしても、100時間×時給 で終わる仕事もあれば、

100時間+業界知識+人脈+実績+語学+次の仕事への入口

になる仕事もあります。20歳なら、目先の収入を最大化するより、将来の人的資本を増やすほうが大きなリターンになる可能性があります。

ワーホリの価値は「外国の産業に入れること」

私はワーキングホリデーの面白さは、単に「海外でアルバイトできること」ではないと思っています。

一定期間、合法的に外国社会の中で働けること。

観光客としてバルセロナへ行けば、好きなブランドの服を買うことはできます。でも、ブランドの中でアシスタントとして働けば、商品がどう企画され、どう売られ、スペインから日本市場はどう見ているのかを知ることができます。

映画を見ることは誰にでもできます。しかし、映画制作会社に入れば、海外撮影がどう動き、誰が調整し、国をまたぐ制作現場がどう成立しているのかを見ることができます。

ワイナリーも同じです。見学すれば観光ですが、そこで働けば、生産、販売、輸出、観光まで含めて「産業」として見えてきます。

一年間だけ合法的に、いろいろな産業の中へ入ってみる。

これは若い時期のワーキングホリデーだからこそできる、かなり贅沢なキャリア探索だと思います。

親が買うのは「正解」ではなく「探索できる時間」

私費留学に高いお金を払えば、親は成果を求めたくなります。

「語学は上達したのか」
「就職に有利になるのか」
「将来、元が取れるのか」

でも20歳なら、まだ答えが出なくてもいいと私は思っています。デザインを学ぶ。企業で働く。映画の現場を見る。違う産業に入る。外国人と働く。自分に向いていないことも知る。その過程で、自分は何が好きなのか、どんな仕事なら能力を発揮できるのかを探せばいい。

留学で買うのは「海外経験」ではなく、将来の選択肢

留学は教育費でしょうか。それとも投資でしょうか。私は、使い方によってどちらにもなると思っています。交換留学なら、授業料免除、単位認定の可能性、大学のネットワークという制度を存分に活用する。

私費留学なら、高い費用を払って手に入れた「行き先を自由に選べる権利」を最大限に生かす。

ワーキングホリデーなら、「働ける」という権利を、生活費を稼ぐだけではなく、外国の産業や仕事を知る入口として使う。

就活の「ガクチカ」のために、数百万円を使うのではない。その後の何十年にも使える能力、経験、人脈、そして選択肢を増やす。そこまでできたとき、留学は単なる教育費ではなく、人的資本への投資になるのだと思います。

【参考】

東京大学「全学交換留学(USTEP)」
早稲田大学国際教養学部「留学」「学費・寮/住まい・奨学金」
University of British Columbia「Undergraduate Tuition Fees」
文部科学省「トビタテ!留学JAPAN 大学生の留学準備ガイド」
外務省「ワーキング・ホリデー制度」

本記事の費用は2026年度時点の公表情報をもとにした概算です。為替、履修単位数、入学年度、留学先、プログラムによって実際の金額は異なります。また交換留学でも、住居費、生活費、渡航費、保険料、ビザ関連費、現地大学の学生サービス料等が別途必要になる場合があります。単位認定や卒業時期についても在籍大学・学部によって取り扱いが異なります。

本記事でいう「投資」「ROI」は、留学によって知識、技能、経験、人脈、進路の選択肢などの人的資本が形成される可能性を示すための表現であり、将来の就職や所得の向上を保証するものではありません。

ABOUT ME
筒井直子|Money Compass 編集長
筒井直子|Money Compass 編集長
出版社勤務30年以上/Money Compass 編集長
慶応義塾大学卒業後、大手出版社で30年以上、編集者として書籍・雑誌に携わってきました。Money Compassでは、家計・投資・教育費・税金・制度など、人生のお金に関わるテーマを、公的機関や一次情報を確認しながら生活者の目線でわかりやすく解説しています。
記事URLをコピーしました