子どもの英語教育は「何歳から?」より「何時間?」
子どもの早期英語教育の話で、必ず出てくるのが「何歳から始めればいいのか」という質問です。2人の子どもの英語教育を経験した今、私は少し違う見方をしています。
「何歳から始めるか」だけではなく、「何時間の英語環境を、いくらでつくるか」。
わが家では、2人の子どもを3歳ごろから小学3年生まで、英語で過ごすスクールに通わせました。1日3~4時間、週3~4回。英語を聞き、話し、遊び、英語で活動する環境です。
費用は決して安くありませんでしたし、こうした教育がすべての子どもに合うとも思いません。それでも、「幼児期にお金をかけてよかった教育は何か」と聞かれれば、私は英語を挙げます。わが家では、その後英語が得意科目になり、受験や進路でも選択肢を広げてくれたからです。
ただし、これは一家庭の経験です。同じ教育を受ければ同じ結果になるわけではありません。そこで、研究では何が分かっているのかも見てみます。
英語は「習う」より「音のまま浴びる」
幼児期の英語教育で興味深いのが、「英語の音」を聞き取る力です。
2012年の『教育心理学研究』では、英語で過ごす国際幼稚園の日本人幼児29人に、意味のない英語の音を聞いてそのまま繰り返す「非単語反復課題」を行いました。その結果、短い2・3音節では、同年代の英語母語児と同程度の成績を示しました。一方、5音節になると英語母語児より成績が低く、日本語を母語とすることによる音韻処理の制約も残っていました。つまり、「幼児期から英語を聞けばネイティブ並みになる」という研究ではありません。
それでも、幼児期から大量の英語に触れる経験が、英語の音を聞き取り、覚え、再現する力と関連している可能性を考える材料にはなります。
2022年の研究でも、日本国内で7年間の早期英語イマージョン教育を受けた中学生63人は、国内で6年以上英語を学んだイマージョン経験のない大学生27人より、同じ非単語反復課題で高い平均得点を示しました。ただし、この研究だけでイマージョン教育との因果関係まで証明できるわけではありません。
英語は「何年習ったか」だけではなく、どんな時期に、どんな密度で英語の音に触れたかも重要なのではないか。私はそう考えています。
英語力を伸ばしたのは「使わざるを得ない環境」
我が家の子どもたちが通っていたスクールには、「2年間で1000時間」という独自の目標があったので、当初は英語に触れる「累積時間」をカウントしていました、1000時間を超えれば英語が身につくという科学的な基準ではありませんが、俗に言う「1000時間の壁」をまず突破したいと思ったのです。
週1回1時間の英会話と、週に何日も数時間を英語で過ごす環境では、年間の接触時間や濃密さに大きな差が出ます。幼児の言語発達についても、接触する言語の量が語彙や文法などの発達と関連することが報告されています。
しかし、個人的に時間よりも大きかったと感じるのが、「英語を使わざるを得ない」環境でした。ドアを開ければ、日本語は使えません。「トイレに行きたい」「お水が飲みたい」「眠い」。小さなことですが、自分から英語で伝えなければ相手には伝わりません。英語を「勉強する」のではなく、英語が生活の道具になる。この経験が、子どもの英語力を大きく伸ばしたのだと感じています。
教育投資には「お金のリターン」だけでなく「時間のリターン」もある
英語教育の費用を考えるとき、月謝の高い・安いだけでは実態は分かりません。週1回の英会話、オンライン英会話、英語学童、サマースクール、インターナショナルスクール。形態によって、費用も英語に触れる時間も大きく違います。
高密度の英語環境を教育投資として考えるなら、見るべきなのは次の5つです。
① 何時間の英語環境を確保できたか
月謝だけでなく、その費用で実際に何時間英語に触れられるのかを見る。同じ10万円でも、月10時間なら1時間1万円、月40時間なら2,500円です。
② その時間に「英語を使う必要」があったか
英語を聞くだけなのか、遊ぶ、頼む、断る、困ったことを伝えるなど、英語を使わなければ生活が進まないのか。同じ100時間でも、英語を使う密度は違います。
③ 後の学習時間を減らせたか
英語が得意科目になれば、中学・高校以降に英語へ割く時間を減らし、数学や国語など別の科目へ回せる可能性があります。これは見落とされやすい「時間のリターン」です。
④ 効果がどこまで残ったか
幼児期に話せても、その後使わなければ英語力は薄れていきます。短期的に話せるようになったかだけでなく、中学・高校以降まで何が残ったかを見る必要があります。
⑤ 将来の選択肢を増やしたか
留学、海外大学、仕事、旅行、海外の情報。実際にその道を選ばなくても、「英語ができないから」という理由で最初から選択肢を閉じずに済むことにも価値があります。
つまり、英語教育の費用対効果は、テストの点数だけでは測れません。何時間の英語環境を、いくらでつくり、その結果として何が残ったのか。家庭の予算の中で、このバランスを見ることが大切です。
英語には「オプション価値」もある
わが家では、幼児期に英語へまとまった時間を使ったことで、英語は得意科目になりました。受験期には英語の勉強時間を抑え、その分を数学や国語など別の科目へ回すこともできました。振り返ると、幼児期に英語へ使った時間と教育費は、英語力だけでなく、将来の勉強時間の余裕にもつながっていたと感じます。
もう一つ大きかったのが、選択肢です。
英語が使えれば、留学、海外大学、仕事、旅行、海外の情報など、アクセスできる範囲が広がります。実際に海外へ進むかどうかは別として、「行ってみたい」と思ったときに、英語力だけを理由に最初から諦めずに済む。金融の言葉を借りれば、英語には将来の選択肢を持っておく「オプション価値」があります。
もちろん、英語教育にかけた時間やお金が、すべての子どもに同じ成果として返ってくるわけではありません。本人の適性や意欲、教育内容、接触時間、継続の仕方によって結果は変わります。高額な教育ほど効果が高いとも限りません。
大切なのは、「早く始めなければ」と焦ることではなく、家庭の予算を無理に膨らませず、子どもが英語を使う時間をどう確保し、それをどう継続するかです。
英語教育は「何歳から」だけで考えるものではありません。何時間の英語環境を、いくらでつくるか。そして、その投資によって何が残るのか。教育費として英語を考えるなら、私はこの視点が重要だと思っています。
※本記事は、筆者の家庭での実体験と公表された研究をもとに、子どもの英語教育について考察したものです。特定の学校・教育サービスを推奨するものではなく、紹介した研究も特定の対象・条件下で行われたもので、早期英語教育の効果を一律に保証するものではありません。教育方法を選ぶ際は、子どもの適性や負担、家庭の教育方針、費用などを含めてご検討ください。
